恋の毒
「……ただ、気になっただけ」
会話を流してほしいという思いを込めて、小声で言いながら、また視線を景色に戻した。
誰かの気持ちや悩みを小説に使おうとした自分が恐ろしくて、でもその嫌な部分を、波がさらっていった気がした。
高城君が言っていたのは、こういうことか。
やはり、一人で来なくて正解だった。
「海に癒し効果、あるかもね」
「でしょ」
高城君の表情は見えない。
でも、得意そうに言っているのだろうと思った。
少しずつ、私の中で海が特別な場所へと変わっていく。
この時間は、私と高城君のもの。
誰も知らない。
その優越感に浸る私がいることに気付きながらも、醜い私は海の中へと消えていった。
◆
海に行った日から、私は明らかにおかしくなっていた。
普段は読まない恋愛小説を手に取ったり。
高城君を目で追ったり。
高城君の声が聞こえると嬉しくなったり。
高城君が一人時間が好きなことを私しか知らないことで、独り占めしている気になったり。
授業中、ノートの隅に“高城陽”と書いてみたり。
この状態がなにを意味するのか知ってはいるが、名前をつけることになぜか抵抗があって、私は気付かないふりをしていた。
だけど、その感情が作品に現れてしまい、認めざるを得なかった。
会話を流してほしいという思いを込めて、小声で言いながら、また視線を景色に戻した。
誰かの気持ちや悩みを小説に使おうとした自分が恐ろしくて、でもその嫌な部分を、波がさらっていった気がした。
高城君が言っていたのは、こういうことか。
やはり、一人で来なくて正解だった。
「海に癒し効果、あるかもね」
「でしょ」
高城君の表情は見えない。
でも、得意そうに言っているのだろうと思った。
少しずつ、私の中で海が特別な場所へと変わっていく。
この時間は、私と高城君のもの。
誰も知らない。
その優越感に浸る私がいることに気付きながらも、醜い私は海の中へと消えていった。
◆
海に行った日から、私は明らかにおかしくなっていた。
普段は読まない恋愛小説を手に取ったり。
高城君を目で追ったり。
高城君の声が聞こえると嬉しくなったり。
高城君が一人時間が好きなことを私しか知らないことで、独り占めしている気になったり。
授業中、ノートの隅に“高城陽”と書いてみたり。
この状態がなにを意味するのか知ってはいるが、名前をつけることになぜか抵抗があって、私は気付かないふりをしていた。
だけど、その感情が作品に現れてしまい、認めざるを得なかった。