恋の毒
「……ただ、気になっただけ」


 会話を流してほしいという思いを込めて、小声で言いながら、また視線を景色に戻した。


 誰かの気持ちや悩みを小説に使おうとした自分が恐ろしくて、でもその嫌な部分を、波がさらっていった気がした。


 高城君が言っていたのは、こういうことか。

 やはり、一人で来なくて正解だった。


「海に癒し効果、あるかもね」
「でしょ」

 高城君の表情は見えない。
 でも、得意そうに言っているのだろうと思った。

 少しずつ、私の中で海が特別な場所へと変わっていく。

 この時間は、私と高城君のもの。
 誰も知らない。

 その優越感に浸る私がいることに気付きながらも、醜い私は海の中へと消えていった。





 海に行った日から、私は明らかにおかしくなっていた。


 普段は読まない恋愛小説を手に取ったり。


 高城君を目で追ったり。


 高城君の声が聞こえると嬉しくなったり。


 高城君が一人時間が好きなことを私しか知らないことで、独り占めしている気になったり。


 授業中、ノートの隅に“高城陽”と書いてみたり。


 この状態がなにを意味するのか知ってはいるが、名前をつけることになぜか抵抗があって、私は気付かないふりをしていた。


 だけど、その感情が作品に現れてしまい、認めざるを得なかった。
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