恋の毒
 それが高城君だと認識するより先に、高城君は隣に立つ。


 隣にいると落ち着かなくて、その場を離れようとするけれど、あっさりと高城君に捕まってしまった。


「俺が話しかけるのが迷惑なのは、十分わかった。これを最後にするから、話を聞いてほしい」


 高城君の悲しそうな声を聞いてなお、逃げようとは思わなかった。


 私たちはあのときのように、並んで海を眺める。


 前に見たときは穏やかな波の動きに心が落ち着いていたのに、今は波音が耳障りだ。


 だけどその音に独占されたくて、ただ波を見つめる。


「俺さ」


 聞きたいけれど聞きたくない声。

 耳を塞ぎたい衝動に駆られるけれど、堪える。


「ちょっとした時間しか過ごしてないけど……だからこそ、もっと鳴海さんのことが知りたいって思った」


 それは私も同じだ。


 私の世界は物語しかいらないと思っていた。

 でも、高城君のことを知って、少しずつ、私の世界は高城君に染められていった。


 じわじわと、それはまるで毒のようで。


「こんなにも誰かのことを考えたのは初めてで……でもこれが、恋だったらいいなって」


 この言葉が、聞きたくなかった。


 勘違いだと強がりたかったけれど、喜んでいる自分もいた。


 ああ、気に入らない。
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