恋の毒
 それも、つい笑顔になってしまうことばかりで、いつものように作り笑いをしているわけではないから、この時間に終わりがあることを名残惜しく思った。


「鳴海さんは嫌じゃないの? 俺と出かけるなんて」


 たしかに、こうしてここで話していなかったら、嫌だと思ったかもしれない。


 でも、今は違う。


「嫌というか……私が一人で行っても、どうせいつも通り、海だなって思って終わるだけだから。高城君がどんな風に感じているのかを知りたい」


 高城君の横顔は、困っているように見えた。


 撤回しようかとも思ったけど、私だけだと無意味な時間になってしまうから、できることなら、そうしたくなかった。


 それにしても、他人に興味を持つと諦めが悪くなるなんて、知らなかった。

 なんだか、今朝の高城君に謝りたい気分だ。


「じゃあ、明日の放課後に行こう」


 いい返事をもらえたことが嬉しいようで、頬が勝手に緩む。


 慌てて引き締めるけれど、高城君には気付かれたような気がする。


「わかった。忘れないでね」
「もちろん」


 そしてそれぞれの帰路につき、私は一人になった。


 楽しみである気持ちが抜けなくて、歩けば歩くほど、足取りが軽くなっていった。
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