交際0日ですが、鴛鴦の契りを結びます ~クールな旦那様と愛妻契約~

「お邪魔しまーす! 小梅さん、ずっお会いたかったんですよー!一織のやつ、照れ屋だからさ。全然奥さんの話してくんないの」

「別に照れてない」

不満げに言う椎名さんをリビングのソファに促しつつ、すぱっと言い切る一織さん。

「嘘つけ! 俺は知ってるんだからな。おまえが小梅ちゃんの写真を熱心に見てると思ったら、『ふっ』って、それはもう世界平和が実現するレベルに優しい顔で笑ってたこと!」

「え、?」

「お、おまえ、何を言って…」

私と一織さんの声が重なって、彼がばっとこちらを見た。思いもよらないタレコミに、私もお茶を注ぐ手を止めて顔を上げる。

「いや、違う。椎名の誤解だろ、」

「え〜? あれはたしかに小梅ちゃんの横顔だったと思うけど?今小梅ちゃんに会って確信したよ。ちょっと酔った感じで顔が赤くて、楽しそうに笑ってる小梅ちゃんの写真だった」

「…おい、それ以上喋ったら追い出すぞ」

「こわ!なんでそんな怒ってんの! そんなに隠さなくたって、旦那に愛されてるのは嬉しいんじゃないの? ねえ、小梅ちゃ、ん…?」

「へ…」

椎名さんが振り返るけれど、私はまともに反応できなかった。
全身が熱い。特に顔。火照りすぎておかしくなりそうだ。おまけに心臓も、ドキドキドキドキうるさい。

「え、照れてる? ほらやっぱ、嬉しいんじゃん、一織、…ってお前も!?」

椎名さんが驚くぐらい、一織さんの顔も、赤く染っていた。

「待って待って。夫婦揃って初心すぎない?そんな照れる?えー、俺もしかしてお邪魔…?」

「…小梅、酔ってて。それで、なんかふと、楽しそうな君を撮りたくなって、欲求のままに隠し撮りを、してしまったというか。ごめん。きもいよな、消すから…」

私たちの顔を交互に見比べる椎名さんを無視して、一織さんは焦ったように弁明する。
それから慌ててスマホを取りだすのを見て、思わず口を開いた。

「そ、それって、私の実家に、挨拶に来た日、ですよね」

「あ、あぁ。ほんとにごめん。勝手に…」

一瞬手を止めた一織さんが、また写真を削除しようと手を動かす。

「待って!」

私はキッチンから出て一織さんの腕を掴む。

「消さないで…ください。きもくないです。全然。むしろ嬉しい、というか、私がいないところでも、私のこと、思い出してくれてるのが……それと、それでいうと私も同罪と言いますか…」

「え?」

椎名さんが口を挟まないのをいい事に、私は思い切って自分の写真フォルダーを一織さんに見せた。

「これ、」

「…そうです。私もあの日、お父さんたちと楽しそうにお酒を飲む一織さんを、撮りたくなって、それで…」

「おいおい俺がいるんだぞ、イチャつくな…」

「きもいのは私もなんです!だから、消さなくても、いい、です…」

「きもくない。 小梅、」

「はい!ストップ! ごめんおふたりさん。まさかふたりがまだこんっなにうぶうぶでらぶらぶだなんて思ってなくて。付き合いたてほやほやのいちばん楽しい時期ってやつ?いやもう結婚してるけど。……とにかく俺はこの辺で消えます! また今度、外でゆっくり会おう!じゃあな」

椎名さんがまくし立ててそそくさとリビングを出ていくので、私はハッとして一織さんを見上げた。

「いいよ。ほっとけ」

「でも、せっかく来てくれたのに、お茶も出さずに、こ、こんな」

「椎名なんかより、今は俺のこと見ろって」

玄関の方をちらちらと気にしていたら、不意に手を掴まれた。

「い、一織さん」

「小梅。日曜日、一緒に出かけないか?」

「へっ? 日曜日、ですか?」

「小梅のことが、もっと知りたい」

な、なんと、デートのお誘い!?
急すぎて、頭が回らない。
でも、触れた手から伝わる一織さんの体温と、私を見つめる黒い瞳のせいで、さっきよりももっと鼓動が早まるのが分かる。

「わ、私も一織さんのこと、知りたい、です」

目を合わせられなくて、小さくそう答えるのが精一杯だった。

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