交際0日ですが、鴛鴦の契りを結びます ~クールな旦那様と愛妻契約~



翌日の昼下がり、静寂を保っていた社長室に新田の悲鳴が響く。

「え、会社の前で出待ち!?」

「ああ。だから今後、丸山の副社長が訪ねてきても絶対に通すな」

「分かりました。 大丈夫なんですか?」

「何が」

「だって社長、そういうあからさまに自分を狙ってくる女性、大っ嫌いじゃないですか」

「…心配するな。もういい大人なんだ」

俺が言うと、新田は納得のいかない顔のまま仕事に戻っていった。
学生時代、もはや日常と化していた告白を断ったら、腹いせに体育館倉庫に閉じ込められたことがある。幸い新田がすぐに気づいて見つけてくれたためそれ以上何があったと言うわけではないが、同級生だった新田はそのせいで俺が余計に女性を避けるようになったのを知っている。

目前に迫る甘い香水の香り、俺を手に入れようと必死に俺を持ち上げる下手くそな口説き文句。そんなものはもう聞き飽きた。

社長という役職に就いてからは遠回しに黄色い声を聞きはしたもののさすがに直接接近しようなんて考える人間はいなかったのだが、丸山は違う。

副社長という立場を利用して、政略的に近寄ってくるその腹積もりを考えるだけで寒気がする。

嘆息して、小梅の顔を思い浮かべた。初めて会った時からずっと、俺に屈託のない笑顔を向けてくれる唯一の人。
朝見送りをしてくれた時に堪らずキスをしたのに、半日と持たず会いたくなるから困る。
早く帰るために、仕事を終わらす他なかった。

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