愛されていたとは知りませんでした。孤独なシンデレラは婚約破棄したはずの御曹司に秘密のベビーごと溺愛される

シンデレラと王子は家族ごっこをする

参観会の日は雲ひとつ無い、抜けるような青空だった。

(これが終わったら、昴さんと今度こそさよならだ)

ずっとそれが心にひっかかっていて、ここ最近は何をしていても寂しさを感じていた。
自分で決めたことなのに、なんて勝手なんだろうって思う。

でも、歩那を真ん中に、三人で手を繋いで家を出発したとき、空がもやもやなんて吸い込んでしまいそうなほど気持ちが良くて、神様が今日だけは何も考えずに楽しむんだよって言ってくれてる気がした。

車に乗って、保育園の駐車場につくとまた歩く。

「歩那、ほら、いっちにーいっちにー」

拙く足を運ぶ歩那を、昴は手助けしていた。
嬉しそうに、リズミカルにかけ声をする。その横顔を見て、花蓮も口元が緩んだ。

ここ最近、思い詰めたような姿を見ることがあった。それはあの晩、昴を拒んでしまったからのような気がする。
優しいところはいつものままで、変わりなく接してくれてはいるけれど、やっぱりこの先の未来も見えないのに、お世話になりっぱなしなのは都合良すぎる。

(昴さんも、わたしの扱いにちょっと困っているのかも)

やっぱり、いつまでも頼ってばかりいるのは厚かましい。
自分で離れるって決めたのだから、もう踏ん切りをつけなくては。

「まんま! くぅ! ぃくお」

ママ行くよ、と歩那が花蓮の手を引っぱった。

「花蓮、ぼーっとしてると転ぶぞ。ほら、歩那が早く行こうって」

昴が反対側の手を繋ぎ、花蓮が真ん中になる。

「え? あ、ちょっと!」

さすがに保育園で手を繋ぐ夫婦は見たことがない。むず痒くなって離そうとしたが、昴はにやりとして力を強める。

「昴さん~、恥ずかしいですよ」

「聞こえないな」

「うそ。聞こえてるじゃないですか!」

抗議したら、今度は指まで絡められてしまう。
次々と登園する家族にチラチラと見られている気がして、羞恥で背中から汗が噴き出した。

「待ちにまった参観会だよ。最高の一日にしたいんだ」

あざとく視線を合わせてきて、今度は違う意味で恥ずかしくなる。

「歩那、楽しみだなー? おやつは何だろうね」

「ぉやちゅ!」

足早になるふたりは半歩前を歩いて花蓮を急かした。

参観会はクラスごとにわかれ、子どもたちの歌をきいて、一緒にダンスをした。手足の長い昴が軽やかにダンスをこなす姿は目立っていて、周囲のお母さんたちからも注目を浴びていた。どこへいっても存在感がある。

婚約解消した時は、まさか一緒に保育園で踊る日が来るとは夢にも思っていなかったから、夢心地のような変な感じがした。
家でもできる、体を使った親子の遊びなどを教えてもらい、最後におやつの試食会があった。

歩那の通う保育園では栄養士が普段から給食のメニューを決めており、調理も施設内に厨房があり、そこで毎日作られている。

一日二回あるおやつは、午後の分は手作りらしく、今日は黄な粉とバナナ味のビスケットだった。テーブルが置かれ、各家庭、子供を挟んで両側に座る。幼児用の椅子は小さくて、そこに長い足を窮屈そうにして座る昴が微笑ましい。歩那はおやつを手に持つと、大きな口で頬張る。
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