愛されていたとは知りませんでした。孤独なシンデレラは婚約破棄したはずの御曹司に秘密のベビーごと溺愛される
「これうまいな。素朴な味、好きなんだよな」

親の分も用意されていて、昴と花蓮も一緒に味わう。

「ほろほろして、口ざわりもいいですね」

フライパンで簡単に作れるらしくて、レシピまで配ってくれた。今度家でも挑戦してみよう。

「今度、オーガニックスープの専門店を出すんだ。そこで、こういう焼き菓子も売ろうかな。現存の店の商品より、もう少し手軽につまめるタイプのものがいい」

簡単に仕事の話を聞くと、ファーストフードのように買える健康食品の店らしい。

「やさしい甘さでほっとできるのがいいかも。おまけでひとつ付くとうれしいですね。スープを飲み終わったあと、甘いもの食べれると元気がでますし」

花蓮も休憩中にチョコレートをひとつつまんだりするが、気持ちの切り替えに役に立っている。

「おまけか。そっか。売るよりいいかもな」

昴がアイデアを褒めてくれて嬉しくなった。

「歩那ちゃんのお母さん~。今日はご参加ありがとうございます! 歩那ちゃんこのおやつ大好きなんですよ。いつもぱくぱく食べてくれるんです」

各家庭を順番に回っていた担任の高橋が声をかけてきた。

「そうみたいですね。わたしの分も半分取られてしまいました。家でも作ってみます」

担任のとなりには二週間前に保育園にきたばかりの新任の先生もいた。
二十代の若い女性だ。テレビアニメで人気のキャラクターのエプロンをして、ツインテールという可愛らしさ。
ひとり産休に入ってしまったため、その代わりとなる。

話は聞いていたが、送迎の時間帯がいつも合わなくて、しっかりと話をするのはほぼ初めましてだ。見かけることはあったが、他の保護者と話をしていたりして挨拶の機会がなかった。

「早間です。いつもお世話になってます」

ぺこりと頭をさげると、先生もにっこりとした。

「ご挨拶が遅くなりましてすみません、新任の平井と言います。これからよろしくお願いしますね」

保育園の先生はいつも明るくてにこにこして、花蓮もつられて笑顔になれる。

「はい。こちらこそ」

あいさつが終わると、平井は歩那に話しかけた。

「歩那ちゃん。今日はママとパパが一緒で嬉しいね~。大好きなおやつだって、パパに教えてあげてね」

「あっ」

高橋が小さく声を上げ、同時にパシリと平井の膝を叩いた。
言外に、家族構成を伝えておいたのに、といった焦りが見られた。
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