愛されていたとは知りませんでした。孤独なシンデレラは婚約破棄したはずの御曹司に秘密のベビーごと溺愛される

シンデレラと王子は家族になる

気持ちも体も通じ合ってからの生活は、脳が溶けるほど幸せだった。
これまでは幸せと一緒に痛みも感じていたが、今では昴がそれを癒やしてくれる。

三人の関係は以前より絆が深まってよりよい雰囲気だ。

歩那は呼びやすいからなのか、「しゅったん」ではなく昴をパパと呼ぶようになった。

ぱーとか、ぱっぱん、みたいにたどたどしいけれどそれがまた可愛くて、昴はそれに目尻を垂らして喜んでいる。
ずっと夢見ていた暖かい家庭。おはようとおやすみは欠かさないし、食事はなるべく一緒に食べる。たくさん話をして、笑いの絶えない毎日。

なんど経験しても、ことあるごとに涙ぐんでしまい、その度に昴は幸せになろうとあたまを撫でてくれた。
でも、不安がゼロになったわけじゃない。

母親に、バレてしまったらどうしようといった心配が付き纏っている。
それに対して昴は、自分がなんとかするから信じてほしいと繰り返した。

『俺が決着をつける。だからもう少しだけ待っていて』

絶対に香の思い通りにはさせないと励ましてくれる。
花蓮には何も出来ることはなく、ただ昴を信じてじっと待つしかない。

そんな中、昴は新店舗の準備が佳境に入ったらしく、忙しくし始めた。

それに加え、毎日とはいわないが頻繁に夜の誘いを受け、花蓮が眠った後に働いている気配がある。
それなのに花蓮と歩那の送迎は欠かさずにいてくれて、いったいいつ寝ているのかと思うほど彼はタフだ。

L×O SOUPの一号店オープンまであと一週間となった。

プレオープンが二日間をかけて大々的に行われるため、そのための研修が明日から始まるらしい。
高級感とお洒落が売りのL×Oブランドが、中身はそのままでポップなパッケージと財布に優しい値段設定となり気軽に買える商品となった。

「花蓮、ごめん。今日は先に出るね」

洗面にいた昴が、珍しく慌てた様子で鞄と上着を掴んでリビングに顔を出した。

「はい! 大丈夫です!」

歩那を抱っこして玄関まで追いかけると、さっきまでシャワーを浴びていたため、石鹸の香りがふわりとした。

「これ、持っていってください。車の中で少しでも食べられたら」

「嬉しい。もしかしてサンドイッチ? 助かるよ。ありがとう」

「慌てて作ったので、簡単なものですけど。」

目玉焼きとハムとレタス。それにトマトチーズを挟んだだけだ。

「久しぶりに寝坊なんてしたよ」

寝坊といっても、実はいつもより起きる時間は早い。
新店舗に搬入した什器に不備があったとかで、急遽、現地に駆けつけることになった。

そのまま関係者を集めた内覧会と説明会があるとかで、大忙しだ。

今朝は二人して寝坊して、先に出なくてはいけない昴にシャワーを譲り、花蓮は片手でつまめる朝食を作った。

「時間ないのに、あんなにするから……」

恥ずかしさを誤魔化しながら膨れてみせる。
昴だけではなく、花蓮も目がしょぼしよぼする。

寝不足の原因は夜更かしだ。言わずもがな、な理由である。
流された自分にも非がなくはないが、昴にあの手この手で迫られたら抵抗する術など知らない。

「仕事を頑張るには花蓮の癒やしが必要なんだよ」

「余計疲労がたまってないです?」

「全然。触れあうほど力を貰えるね。俄然仕事も張り切れるよ」

昴は、サンドイッチを受け取ると顔を傾けた。

「お見送りのキスは?」

口を尖らせて渋ってみせると、昴は「はやく。遅刻しちゃう」と強請った。

「もう……」

そっと重ねると、昴が何度か啄んだ。

そして歩那のほっぺたにもぶにっとキスをすると、満足げに微笑んで玄関を出る。

「じゃあね、行ってきます」

「お気を付けて」
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