愛されていたとは知りませんでした。孤独なシンデレラは婚約破棄したはずの御曹司に秘密のベビーごと溺愛される

王子は継母と戦う

顔を見るだけで、これほど不愉快になるのも珍しい。
昴は香が現れた瞬間に気分が急降下して、そう自己分析した。

花蓮から、ずっと虐げられ辛かったという過去を聞いたからかもしれない。

元々苦手ではあったが、尚更関わりたくない人となった。高級ブランドに身を包んだ派手な出で立ちも、彼女が纏うと下品に見えてくる。

香は用もないのに現場での最終打合せに顔を出した。
誰しもが難癖を付けに来たなと思ったにちがいない。その証拠に早間の社員でさえ顔を顰めた。

水面下で早間との関係を清算すべく動いているが、あと少しといったところだ。

取締役会で議題には上げており、提携は利益もあるがそれだけにこだわってはいけないという考えの役員を半数確認できた。強引な手法が当たり前になっている早間は、いずれ綻びがでるのではないかと思っている。違約金を払ってでもこのあたりで手を打つべきだ。

顧客満足や地域に愛される会社を目指す桜杜と、店舗がなく製品だけを産み出す早間とでは方向性が違いすぎる。

「こんなに低価格じゃあ、L×Oの価値が下がらないかしら。デザインも高級感がないわ。お店もポップすぎるし」

その場にいた広報担当者はぎょっとして、仕上がりを確認しに来ていたデザイナーは信じられないことを聞いたという顔をした。
開店を目前にそれを言って、どうするというのだろう。

出来上がった物にケチをつけるのが彼女の常套句だ。意見があるのなら企画段階ですべきだし、発言の場もわきまえて欲しい。
これまでの事業とはターゲットが違うのだから、価格は調整して然るべきだ。

「企画プレゼンでもご説明した通り、品質、味、栄養はそのまま。そこに手軽さを加えたのがL×O SOUPのコンセプトです。一商品に対する利益率は百貨店内の店舗より下がりますが、ファストフードの利点を取り入れてます。回転率が良いですし、立地からも目を引き多くの来客が見込めるでしょう。レストランの宣伝にもなりますし、広告費用対効果を考えれば悪くないです。全責任はわたしが取りますので、売上が芳しくなかった時にご意見伺いましょう」

店舗はオリーブグリーンをベースに、白い木目とレンガを取り入れ可愛らしさを備えた造りになっている。

可愛いだけではなくシックさも取り入れたのは、男性客も入りやすくするためだ。大きな駅構内で、改札口からも近く人通りも多いし目立つ立地だ。昴はぜったい成功できるという自信があった。

もともとこのプロジェクトは桜杜の発案で、八割方、昴の主導だ。
暗に口を出すなと含みを持たせたが、はてしてどれだけ響いているのか。

香がムッとした顔をした。
< 116 / 129 >

この作品をシェア

pagetop