愛されていたとは知りませんでした。孤独なシンデレラは婚約破棄したはずの御曹司に秘密のベビーごと溺愛される

現代のシンデレラ

三週間後、週刊誌に『早間コーポレーションの闇をあばく』というタイトルの記事が載った。

香と葉子の確執からゆかりと花蓮が受けた不遇、そしてゆかりの事故死が公表され、同時にあの晩の音声が上手く編集されオンライン記事にも公開された。

取引先と下請け会社のインタビューも掲載され、桜杜ホールディングスをはじめとする各会社は被害者という立場に見られた。

「はぁーあ、まさか花蓮ちゃんの話がこんなに凄いことになるなんて」

スーパーの休憩室で週刊誌を広げていた山根が、感心したように言った。

「やだ。山根さんその雑誌買ってたんですか」

休憩室に入ってすぐに雑誌が目についてがっくりと首を垂れる。

「そうよ。だって表紙王子様じゃないの。やっぱり華があるわよねぇ」

山根は頬杖をついてぱらぱらとめくる。

反対側の手には煎餅を持っていた。まるで自宅のリビングのように寛いでいる。

「それに花蓮ちゃんも載ってるし。記念に」

「なんの記念ですか」

「えー? 知り合いなのよって自慢できるじゃない」

早間の記事は巻頭のかなりのページを使って書かれている。リークは早間への制裁だ。

「泥臭くて本当はやりたくないけれど、世間に暴露しないともみ消して同じことを繰り返すから」

というのが昴の言い分だ。
どうしても力に差があるから、出来ることは手当たり次第やっておくのだそうだ。

昴が今後の花蓮と歩那の生活に影響がでないようにと、記者と交渉を重ね最大限の考慮をしてくれたわけだが、いざ発売した雑誌には、最終チェックしたはずの記事に追加で花蓮のことまでセンセーショナルに書かれていた。

『継母に虐げられ、愛した男と引き裂かれながらも、姉夫婦が遺した子供を育て健気に生きる現代のシンデレラ』
と写真付きで大きく書かれているのだ。
顔はモザイクがかかっているが見る人がみればわかる。

保育園の先生にも声をかけられたし、自意識過剰でなければたまにお客さんの視線が気になるときもある。

「やられた」と頭を抱えた昴はすぐに週刊誌に抗議したが、日々荒波を潜り抜けている記者はやはり上手で、「損のない記事になってますよ」と飄々としていたらしい。

確かに悪くは書かれていなく、むしろ昴の評価はあがり、花蓮は世間に同情されるような内容になっていた。
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