愛されていたとは知りませんでした。孤独なシンデレラは婚約破棄したはずの御曹司に秘密のベビーごと溺愛される
「やだなぁ、ミステリアスだなんて。普通のシングルマザーですよ。でもシンデレラは憧れるかも。王子様が迎えに来てくれたら素敵ですね」

昴が迎えに来てくれる姿を想像して、少しだけ幸せな気持ちになった。

「あら! 花蓮ちゃん王子様待ちなの?!」

山根が色めきだって声を大きくする。

「ただの妄想ですよ。女子ならみんなみる夢でしょう?」

「花蓮ちゃんなら妄想で終わらないわよ! ほらみて! 独身男達がソワソワし始めたじゃない」

山根の指摘に目を丸くして周囲を見ると、なんとも言えない顔をした同僚達がこちらの様子を伺っていた。

「や、やめてくださいよ。何言ってるんですか」

「エリアマネージャーとかなら給料も悪くないと思うよ?! 社内が嫌ならあたしけっこう顔広いから……」

からかう山根に花蓮は焦る。

「山根さんってば!」

「ほらほらー。いつまでもお喋りしてないで。大丈夫だったなら仕事にもどりましょう!」

店長が来て、集まっていた人たちを散らした。

その後は手首の痛みと周囲の視線が妙に気になって、またもやあまり集中できなかった。

米は検品して問題なく、買い取らなくてもいいと言われたが、花蓮はそれでも購入して帰ることにした。

米袋を1つ抱いて帰ろうとしたとき、シフト交代で擦れ違った高校生アルバイトの男の子に
「早間さん、彼氏募集中ってまじっすか?」
と聞かれて頭を痛くした。
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