愛されていたとは知りませんでした。孤独なシンデレラは婚約破棄したはずの御曹司に秘密のベビーごと溺愛される

シンデレラは受難に見舞われる

「はぁ、参ったなぁ」

花蓮がころころと押すベビーカーには米の袋が寝ていた。本来の主である歩那は、抱っこ紐で花蓮のお腹にくっついている。

カートの背もたれにはスーパーで買った食材と、薬局で買った洗剤類。それに保育園バッグがぶら下がり膝がガサガサとぶつかった。

カートはなるべく左手で押して、右手は添えるだけにしている。

仕事を終えて保育園に着く頃には、右の手首がひどく腫れていた。すぐに冷やさずに無理をしたのがいけなかったかも知れない。

熱をもっていて、動かすと鈍く痛む。きっと捻挫だろう。

まっすぐに家に帰らず、少し遠回りして薬局経由で湿布を購入してきたのだが、財布を出すのも一苦労だった。
早く治さないと。
そうでないと、抱っこに料理にお風呂。すべてが不便になる。

仕事でも迷惑をかけることは避けたい。

「だー、んばー」

歩那が何かを喋っている。

「そうなの。ちょっとね、お仕事でお手々痛くしちゃったんだ。歩那がいたいのいたいのとんでけーってしてくれる? そうしたらきっとすぐに治るよ」

「あうー」

涎でベタベタの顔がにぱっと笑った。

一日の疲れが吹っ飛ぶほど可愛らしい。

「ふふ、可愛いなぁ。ありがとうねー」

なんとか家の前にたどり着く。玄関前まで段差も多くてベビーカーは通りにくい。
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