愛されていたとは知りませんでした。孤独なシンデレラは婚約破棄したはずの御曹司に秘密のベビーごと溺愛される
しかし、花蓮は勤務先や子どもの預け先などは教えてくれたが、肝心のなぜ実家を出たのかと子供の父親については口を噤んでしまう。

とりあえず夫も含め、他に頼る相手もいないと聞くことができた。

結婚もしていないようだし、相手がいないのなら問題ない。

しばらくの間だけだと説得し半ば強引にマンションに連れてきたが、そんなのは方便で、昴は花蓮をこのままずっと住まわせるつもりだ。

初めは、気持ちに区切りをつけるために花蓮を探していた。

顔を見たら諦めよう。幸せに暮らす姿を見て、初めから愛してなどいなかったと聞いたら、もう会うのはこれきりにしようと決めていたのだ。

それなのにどうだろう。

とんでもない場所に住み、生活は苦労が見え、こどもがいながらも昴へ向ける感情は昔と変わりなく感じた。

付き合っていたころのまま。
顔を上気させる仕草もそうだし、潤んだ瞳がまだ好きだと訴えかけている気がするのだ。

抱き寄せれば、戸惑いながらも抵抗しない。
昔と変わらず信頼してくれているのが嬉しくて堪らない。

「昴さん、お風呂ありがとうございました」

考えに耽っていると、風呂から花蓮がでてきた。
コンシェルジュに用意させたパジャマは少し大きかったらしく、だぼついている。
少し痩せすぎではないかと心配になった。

しっとりとした首筋。
ちらりと鎖骨が見え、場違いな欲が湧き上がりそうで目をそらす。

(男に襲われたばかりの花蓮に手を出してみろ、嫌われるどころじゃ済まないぞ)

ごくりと喉を鳴らして、見えないふりをした。

花蓮が近づくと、愛用しているカモミールのシャンプーの香りがした。
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