愛されていたとは知りませんでした。孤独なシンデレラは婚約破棄したはずの御曹司に秘密のベビーごと溺愛される
普段は癒し効果を期待して使っていたが、彼女がその香りを纏うとやけに色っぽかった。

「もっとゆっくり入ってきていいのに。ゆっくり浸かった方が疲れが取れるよ」

「ありがとうございます。でも、歩那が泣いて起きてしまわないかと思って、ソワソワしてゆっくりできないんですよ。湯舟にも浸からせてもらってます。十分です」

花蓮はすぐに歩那の寝顔を確認しにいく。
すやすやと眠る頬を指で突くと微笑んだ。

母親の顔にちくりと胸が痛む。

子どもの父親はどんな男だろう。
こんな大変な生活をさせておいて、なんとも思わないのだろうか。

「そうか。でも俺もいるんだし、少しは気を抜いていいよ。俺だって抱っこであやすくらいならできる……たぶん」

自信があるわけではなく、語尾に小さくたぶんと付け加えた昴に、花蓮は笑った。
ずっと思い詰めた顔をしていたので、気を緩めたくれたことにほっとする。

「昴さんのことは頼ってます。そうじゃなかったら、シャワーさえゆっくり入ることができなかったと思います」

確かに。あのままあの部屋にいたら気が抜けなかっただろう。
花蓮の髪から、歩那の頬にぽつりと雫が落ちた。

歩那はひくりと口を動かす。

「髪がびしょびしょじゃないか。風邪をひくよ」

「す、すみません。いつも乾かす暇もないから、自然乾燥の癖がついちゃって」

花蓮は恥ずかしそうに誤魔化し笑いをした。
そんな些細な時間さえもないのかと驚く。

同時に、その世話は、これからは自分がしてやるのだと妙なやる気が湧いた。

「じゃあ、花蓮のことは俺にお世話させて」

昴はタオルとドライヤーをとってくると、花蓮の髪に触れた。
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