愛されていたとは知りませんでした。孤独なシンデレラは婚約破棄したはずの御曹司に秘密のベビーごと溺愛される
昴は朝もしっかり食べ、夕食は会食がある日以外は早く帰宅し一緒に食べている。
凝ったものはつくれないが家庭料理はけっこう覚えた。

素朴な味付けを美味しい美味しいと喜んでくれるので、作り甲斐がある。
ちょっと困るのは、キッチンに立っていると飽きもせずに朝も夕方もかならず抱きつくことだ。

エプロンを付けたら、昴は「ぐっとくる」などと感想を述べて、次の日には数種類のエプロンをプレゼントされた。
抱きつかれるのも、それを怒るのも、恒例行事のようになってきている。

「可愛い。今日も大好きだよ」

顔を赤くして振り向くと、昴は爽やかな笑顔を見せた。

「昨日の目玉焼きを焼きすぎたのは、昴さんのちょっかいが長かったからですよ。これでもずっと自炊していたんですから。いつもはそんな失敗……」

不貞腐れてみせる。

「はは、下手だって言ってるんじゃないよ。花蓮のごはんはほんとに美味しくて、毎日食べれて幸せなんだ」

「ちょっかい出されなかったら、もっと美味しくつくれるんですけど」

動揺しなくて済むから、の言葉は秘密にしておき抗議する。

「ちょっかいとは心外だな。愛情表現だよ。花蓮にちゃんと気持ちを伝えてこなかったことを後悔していると言っただろ。俺は同じ間違いをしたくないんだ」

もう一つ困っていることがあった。

毎朝、毎晩。いや、一緒にいるときはずっと、これ以上ないというほど愛を伝えてくれる。

それまでは遠慮をしていたけれど、もう我慢はしないというのが昴の言い分だ。
昴に愛されることを夢に見ていたから、困る反面、正直とても幸せだったりする。

まんざらでもないことを昴もわかっているようで、目を細め、蕩けるように甘やかしてくれるのだ。

でもやっぱりこのままでいいのかというしこりは無くならなくて、矛盾した切なさに眉を垂らすと、昴は眉間を指で突いた。

「ほら、そんなに困らないで。安心して身を委ねていてよ。不安は俺が解決する。俺たちは必ず上手くいくよ」
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