ワケありベビーと純真ママを一途な御曹司は溢れる深愛で離さない~君のすべてを愛してる~
「ママ! んま!」

歩那がリビングから走ってきた。

「おっと、お料理中は危ないぞ。立ち入り禁止だ」

昴が手前で抱き上げ、手前でキッチンへの侵入を阻止する。

「あーっ! ぶー!」

キッチンへ入りたくて抵抗する歩那を昴は肩車した。
歩那は昴ばかりずるいと、ぺちっと腕を叩いて抗議する。

「あー、んまー。ご、たあご。んま!」

これは卵を食べたいと言っているようだ。

「歩那はぽくぽく好きだよねー。もうちょっとでできるからね」

ママとごはんが聞き分けられるようになった。
歩那はここ数日で、語彙が急激に増えた気がする。

それも昴の存在が影響しているのかもしれない。家の中での会話が多いからだ。
他愛ない会話をし、笑うことが増えた。
楽しくて、あったかくて、夢見た家族そのものだ。

朝食を終えると、三人一緒に家をでて、歩きたがる歩那を真ん中にして三人で手を繋ぐのも毎日だ。
昔は昴の背中を追って歩くばかりだったから、横を向くと顔があるのはなんだか擽ったい気持ちだ。

昴の出勤時間はもう少し早いはずなのに、心配だからと合わせてくれていた。
そんなことをしていると、本当の家族のような気持ちになれる。

同じマンションのマダムに、毎朝仲良しねと微笑まれると切なくも、嬉しくもあった。

「今日は五時半までだっけ?」

豆腐の味噌汁をすすりながら昴が確認した。
白米に味噌汁。目玉焼きにしらすという普通の朝食。

「そうなんです。人手不足でちょっと長めで……」

「歩那のお腹が持てばいいな。俺が先に迎えにいってあげられればいいんだけどなぁ」

保育園では防犯面から、親族以外の迎えを禁止している。
事前に知らせて登録を済ませておけば、子育て支援の人なども可能なので、昴の立場でも駄目なことはない。……しかし、現時点では、自称同居人というだけなので園側は、児童の引き渡しをしてくれない。

昴は世話になってから毎日送迎してくれていて、歩那もすっかり懐いている。
先生方にも認知されていて、問題は多分ない。

とはいえ、今の気持ちでは、お迎えの登録をすることはできない。

「すみません……」

「何で謝るの。花蓮のせいじゃないだろ」

昴がもどかしく思っている原因は、自分がうじうじとしているせいなので、花蓮は苦々しい笑みを返した。
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