ワケありベビーと純真ママを一途な御曹司は溢れる深愛で離さない~君のすべてを愛してる~
「仕事終わったらすぐ出れるように駐車場で待ってるから。花蓮は焦らずおいで」

額にキスが落ちてくる。昴はそんなこともわかっていて、気にするなと言ってくれているようだった。

「あー、あぅちゃーも」

歩那は手を動かしてアピールする。

あゆなちゃんと保育園で呼ばれているためか、自分のことをあゆちゃんと言いだした。うまく言えなくてあうちゃんになっているのが微笑ましい。

「なんだ。歩那もちゅーしてほしいのか?」

「ちゅ。ちうー」

たこになった口に、昴と花蓮は噴き出した。

「あは。かわいい」

「まかせろ。たくさんしてやるぞ」

歩那のやわらかいほっぺたが、昴の唇で潰される。昴は連続で何回もした。
チュッチュッとリップ音が鳴り、歩那はきゃっきゃと喜ぶ。

(わたしより昴さんとキスしてるかも……!)

じゃれあうふたりに複雑な気持ちになった。

いや、なにを子供に対抗しようとしているのだ。

“わたしももっとイチャイチャしたい“
湧き出てくる気持ちをかき消す。

交際の申込みを保留にしている状況なのに、なんて自分勝手なのだろう。
気持ちを押し殺して、残っていたお味噌汁を一気飲みし、嬉しそうな歩那を横目に片付けようと立ち上がった。
勢いがついてしまい、ガタンと椅子が鳴る。

昴は音で顔を上げると時計をみた。

「ああ、もうこんな時間だ。歩那といると時間が過ぎるのがあっと言う間だな。お仕事終わったらママとすぐに迎えにいくから、今日もたくさん遊んでくるんだぞ」

昴は歩那の頬を今度はつついた。

「あしょぶぅ」

「怪我しないようにな。いじめっ子がいたら俺に教えるんだぞ。成敗してくれる」

「あぅ」

「昴さん、急ぎましょう! 歩那も。歯磨きするよ」

いつまでもいちゃついているふたりに声が大きくなった。
昴がきょとんとする。
暫く目を丸くしたまま見つめられ、花蓮は「な、なんですか」と居心地を悪くした。
お皿を掴むとキッチンへ逃げる。

気持ちを誤魔化すように、食洗機を使わずにザバザバと洗い物をした。意味のわからない感情も流れてしまえばいいと思った。
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