伯爵令嬢は胸を膨らませる〜「胸が小さいから」と婚約破棄されたので、自分のためにバストアップしてからシスターになります〜

普通に聞かれたわー!

 常緑樹の道を抜けて、花壇のある広場へ出る。結局ヴィンセントも隣にいる。

「時にヘレナ。肉体改造は順調?」

 普通に聞かれたわー! え? 今まで聞いてこなかったのは油断させるため? 配慮してくれてるんじゃなかったの?

 絶句していることに気付いたヴィンセントが、補足するように口をひらく。

「ああごめん。仕事だから恥ずかしがる必要もないし、逆に恥ずかしがって聞かないほうが不自然かと思って。それが協力の条件だし、僕らは仕事のパートナーだ。手伝えることがあったら手伝いたいんだ。不快にさせてしまったのなら今後は聞かないようにするよ」

 まあたしかに一理ある。変な雰囲気になるよりも、こうやってさらっと事務的に話したほうがいいのかもしれない。

「不快というか、びっくりしただけだから、まあ……いいわ。実はコルセットの胸のサイズが少しだけ大きくなったの。見ためじゃ分からない程度だけど」

 わたくしがとても機嫌がいい理由がこれだ。

 数日前、朝コルセットをつけるときに胸のところにできるかぎり肉をつめこんでいたら、何だかあふれているような気がしたのだ。仕立屋を呼んで採寸を行ったら、コルセットの胸部分を少し大きく仕立て直すことになった。

 うそでしょう? と思いながらも、二の腕の肉を力いっぱい脇を通って胸へ移動させるマッサージをしているとき、見下ろした胸が何となく少しだけ増えているような気がしていたのだ。採寸でそれが証明されて飛び上がった。どれが効いたのか分からないが、やはりマッサージだろうか? 効かなくても失うものはない、けれど大きくなりたい。そう思って一か月続けたが、今後はがぜんやる気が湧いてきた。

 そういうわけで本当は誰彼に言って回りたいくらい嬉しく、ヴィンセントにも言ってしまいたいくらいだったのだが、さすがに婚約者でも何でもない異性に言うのは配慮がなさすぎるだろうとこらえた——のだが、まさか向こうから尋ねてくるとは思わなかった。

「おめでとう。よかったね。まだ続けるの?」

 ヴィンセントはいつものように人当たりのいい微笑みを作っていて、下心などは感じられなかった。まあ女性に慣れているヴィンセントはわたくしの胸がほんの少し大きくなったからといって何も思わないだろう。反応が薄いのががっかりといえばがっかりだ。

「もちろん。まだ続けるわ。目標には届いていないもの」

 十人見れば十人が大きいと言う。それが目標だ。

「そう。まだ図書館の本の方法で? それともほかの方法を探すのを手伝う?」

「本の方法を続けてやってみるわ……その。ありがとう。本の件は助かったわ」

 不本意ながらお礼は言っておかなくてはならない。ヴィンセントは意外だったのか面食らった顔をしてから笑い声をもらした。

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