鮮血の妖精姫は、幼馴染の恋情に気がつかない ~魔法特待の貧乏娘、公爵家嫡男に求婚されつつ、学園生活を謳歌します~

クラリス・グラセスは気に入らない

 アーロン・アークライトは、皆の憧れの人だった。
 甘い顔立ちの美青年で、物腰も柔らかく、表情や口調も優しい。
 それでいて、武の名門の生まれで、本人も剣の腕が立つというギャップ。
 いたずらに肌を見せるような男ではないから、彼の肉体を拝んだことのある女子はいない。
 だが、その優し気な顔の下に、鍛え上げられた肉体があるであろうことは、想像に難くない。
 見えないからこそ期待や妄想が膨らむようで、女子たちは「どんな身体を隠しているのかしら」とこっそり盛り上がっていたりする。
 
 由緒正しき伯爵家の生まれである、クラリス・グラセスも、アーロンに憧れる女子の一人だった。
 家柄や年齢の釣り合う女の子として、親とともにアークライト家に行ったことだってある。
 当時は、10歳ほどだったろうか。
 アークライト公爵はまず、アーロンが剣の練習をする姿を、少し離れたところから見せてくれた。
 まだ幼いというのに、木剣を振る彼の姿は、とても凛々しく力強くて。
 練習後、着替えて現れたアーロンは、剣を握っているときとは別人のように穏やかで優しかった。
 クラリスは、思った。彼こそが、自分の理想の王子様だと。
 初めて会ったその日から、クラリスはアーロンに憧れ続けている。
 ……まあ、それはマリアベルを除く他の女子も同じことなのだが。
 
 
 クラリスは、アーロンに自分を見て欲しくてアピールし続けた。
 手紙を書いたり、子供同士の社交の場では、なるべく彼のそばにいられるようにしてみたり。
 勇気を出して、話しかけてみたり。
 アークライト家から婚約を申し込まれる想像だってした。
 しかし、アーロンがクラリスを特別扱いすることはなく。
 柔和な笑みを向けてはもらえるものの、それは、他の女子に向ける笑顔と、同じだった。
 アーロンに近づいていく女子は多いが、彼が特定の子を贔屓にすることはない。
 自分を見てもらえないことは悲しかったが、彼の心も婚約者の座も、誰のものにもなっていないのなら、まだ、チャンスはある。
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