元皇女なのはヒミツです!

「ちょっと!」しびれを切らしたのか公爵令嬢が私に向かって声を荒げる。「なにボサッと見ているのよ! さっさと拾いなさい!」

「なぜですか?」と、私はきょとんとした顔で答えた。

 公爵令嬢はみるみる顔を真っ赤に染めて、

「主人が落としたのよ! ずぐに拾うのが礼儀ってものでしょう!」

 私は「はぁ~~~っ!」と、彼女に見せつけるように仰々しく深いため息をついた。

「公爵令嬢様、前回も申し上げましたが私のあなたの教師であって召使いではありません。それに、教科書はあなたがわざと落としたんじゃないですか。自分の不始末は自分でなんとかしなさい」と、私が言うと後ろにいたメイドの一人がプッと小さく吹き出した。
 公爵令嬢は物凄い勢いで振り返って眉を吊り上げて、

「今笑ったのは誰よ!? 許せない! お父様に言い付けて首にして――」

「公爵令嬢様」と、私は彼女の言葉を遮って促す。「早くご自分で拾ってください」

「はぁっ!? なんで公爵令嬢のわたしが拾わないといけないのよ! ちょっとそこのメイド! 早く拾いなさいよ!」

 私はビクリとして動こうとするメイドを制止して、

「駄目です。公爵令嬢様が拾うのです」

「嫌っ!」
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