元皇女なのはヒミツです!

 私はすっと息を吸ってから、

「大変っ! ストロガノフ家のエレーナのドレスが汚れてしまったわ! どうしましょう!」

 周りに聞こえるように声を張り上げて大仰に叫んだ。

「ストロガノフ家の! エレーナが!!」

 ここは大事なことなので二回言ってみたわ。さぁ届け、貴族のお坊ちゃんお嬢ちゃんたちまで。

「エ……エレーナですって!?」

「ストロガノフ家のドレスを汚した!?」

「素敵なドレスと思っていたけどエレーナだったのね!」

「なぜ平民がエレーナを?」

「さすがにこれは不味いのでは……?」

「ストロガノフに宣戦布告しているのと同じだぞ」

 不穏な空気が一気に広がった。
 皆、さっきとは打って変わってグレースを非難するような視線を送る。思惑通りね。

「なっ……!」グレースは目を見張ってよろよろと一歩下がる。「う、嘘よ! 平民なんかが最高級のエレーナのドレスを着ているはずないわっ!」

「嘘なんかじゃないわ。ね、セルゲイ?」と、私は彼に目配せをした。彼はニヤリと口の片端を上げて、私の作戦に乗ってきた。

「リナの言う通りだ。今度エレーナから若い令嬢向けのカジュアルドレスを出す予定なんだ。だから今日のパーティーで彼女にその宣伝をしてもらうことになったんだよ。これは間違いなくエレーナのドレスだ。本物の、ストロガノフの、エレーナだ」

 あら、セルゲイも大事なことを二回言ったわね。しかもゆっくりと分かりやすいように。

 グレースは完熟の林檎のように顔を真っ赤にさせて、

「そんなの、聞いてないっ!!」

「そうね。これから宣伝回りをする予定だから言っていないわ」

「くっ……!」と、彼女はきっと私を睨む。私は蔑むように彼女を見て鼻で笑った。

「エレーナのドレスを意図的に汚すということは、ストロガノフ家に喧嘩を売っていると解釈してもいいんだな、グレース・パッション伯爵令嬢?」と、セルゲイが言うと会場がざわついた。
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