その甘さに、くらくら。
「おい、五月女」
漏れた声に、近くの生徒数人が俺と五月女に顔を向けたが、その中に助け舟を出してくれるような正義感に溢れた人はいなかった。相手が五月女だからだろう。自ら危険を犯してまで、彼の前に立ち塞がりたくはないのだ。その領域に、足を踏み入れたくはないのだ。
五月女だけじゃない。きっと、陰キャのように教室の隅で常に息を潜めている地味な俺とも、関わりたくはないのだ。これは、五月女の日頃の行いが招いたことで、俺の日頃のキャラが招いたことだ。普段から一人で行動している者同士が接触したところで、周りに影響を及ぼすことなど何もない。
五月女が、俺の腕を掴んだまま教室を出る。呼びかけても、彼はこちらを見向きもしない。一体どこへ向かうつもりなのか。俺をどこへ連れて行くつもりなのか。血液を返せ。俺の用件はそれだけだったのに。
人を避け、廊下を進み、普段は使われることのない空き教室に押し込まれる。目的地はここか。容易に二人きりになれる場所。扉の外は人気がないわけではないが、机と黒板があるだけの、使用されている教室とさして変わらないここに、わざわざ足を踏み入れる人などいないだろう。
「こんなところに連れ込んで何すんの? 俺はそれ、返してほしいだけなんだけど」
掴んでいた俺の腕から手を離し、扉を背に後ろ手で鍵を閉める五月女と対峙して。まだ彼の手に収まっている、俺の大事な血液を指差した。返せ、ともう一度手のひらを見せる。返せ。
沈黙が続く。五月女は口を開かない。言葉もなく俺を凝視するだけ。何なんだ、此奴。何を考えているのか全く読めない。
漏れた声に、近くの生徒数人が俺と五月女に顔を向けたが、その中に助け舟を出してくれるような正義感に溢れた人はいなかった。相手が五月女だからだろう。自ら危険を犯してまで、彼の前に立ち塞がりたくはないのだ。その領域に、足を踏み入れたくはないのだ。
五月女だけじゃない。きっと、陰キャのように教室の隅で常に息を潜めている地味な俺とも、関わりたくはないのだ。これは、五月女の日頃の行いが招いたことで、俺の日頃のキャラが招いたことだ。普段から一人で行動している者同士が接触したところで、周りに影響を及ぼすことなど何もない。
五月女が、俺の腕を掴んだまま教室を出る。呼びかけても、彼はこちらを見向きもしない。一体どこへ向かうつもりなのか。俺をどこへ連れて行くつもりなのか。血液を返せ。俺の用件はそれだけだったのに。
人を避け、廊下を進み、普段は使われることのない空き教室に押し込まれる。目的地はここか。容易に二人きりになれる場所。扉の外は人気がないわけではないが、机と黒板があるだけの、使用されている教室とさして変わらないここに、わざわざ足を踏み入れる人などいないだろう。
「こんなところに連れ込んで何すんの? 俺はそれ、返してほしいだけなんだけど」
掴んでいた俺の腕から手を離し、扉を背に後ろ手で鍵を閉める五月女と対峙して。まだ彼の手に収まっている、俺の大事な血液を指差した。返せ、ともう一度手のひらを見せる。返せ。
沈黙が続く。五月女は口を開かない。言葉もなく俺を凝視するだけ。何なんだ、此奴。何を考えているのか全く読めない。