その甘さに、くらくら。
 嫌気が差しているような、不満が見て取れるような、美味しくないものばかり飲んでストレスが溜まっているような、そんなマイナス要素を含んでいる低い声が鼓膜を揺らす。思わず眉間に皺が寄ってしまった。五月女は婉曲的に、盗った血を飲んだと言っているのだ。そうでなければ、飲まないと分からないような感想など言えるはずがない。

 人のものを盗んだ罪悪感も、それを勝手に飲んだ罪悪感も、此奴にはないのだろうか。ないのだろう。申し訳ないという態度が微塵たりとも伝わってこない。一つも思っていないから一つも伝わらないのだ。失礼だが、きっと此奴は良心が欠けている。

 でも、どうやらそんな、サイコパスであることがちらちらと見え隠れしている五月女も、それを美味しいとは感じなかったようだ。俺と五月女の味覚はほぼ同じらしい。五月女の行動と五月女の舌の機能で確信してしまうのは少し癪だったが、やむを得ない。やはりその血液は、不味いのだ。俺だけがそう感じているわけではなかった。俺の舌が馬鹿になっているわけじゃない。

 良くも悪くも収穫を得られたことに気を取られているうちに、俺は五月女にナイロン袋ごと腕を掴まれていた。不意を突かれ、反応が遅れる。そのまま五月女はすっくと席を立ち、俺をどこかへ連れ出すようにずるずると引っ張り始めた。服の上からなのに皮膚に指が食い込むほど強く掴まれ、思っている以上に振り解けない。

 嘘だ。こんなに力の差があるなんて聞いてない。俺は聞いてない。力加減が明らかにバグっている。五月女はどこかおかしい。
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