その甘さに、くらくら。
 五月女は、俺に何かを期待している。そのゲロを、ゲロじゃないと言えば、その先に何が待ち受けているのか。逆に、ゲロだと賛同すれば、この息苦しさすら覚える圧迫感は消えるのか。分からない。どう答えるのが正解なのか、分からない。俺にとってその血液は、美味でもゲロでもなく、ゴムなのだから。

「このゲロ、飲ませてあげるから、それでちゃんと確かめて。ゲロか、ゲロじゃないか」

「え……、なに、飲ませる……?」

 疑問を口にするが、手早くパックの蓋を開けて、一歩、二歩、三歩、俺との距離を縮める五月女は何も答えてくれない。動揺する俺を置いてけぼりに、どことなく瞳孔の開いているような目を俺に向ける五月女は、有無を言わさず俺の顎を片手で掴んで上向かせ、口に指を無理やり突っ込んできた。歯と歯の間に挟まる指。その指が俺の舌に当たり、ほんの少しだけ塩っぱい味がした。

 俺が状況を理解するよりも先に、指を挟むことでできた唇の隙間に、パックの中の血液をとぷとぷと丁寧に流し込む五月女。ゆっくりと口内を満たすそれに、俺は目を白黒させた。

 決して美味しくはない、ゴムの味がするものを、自分の意思に反して強制的に飲まされていることに気づいて焦りが募り、俺は異物を吐き出そうと悶え、喉を通ろうと突き進む血を吐き出した。反射で五月女の指を噛んでしまっても、彼は平然としている。慌てた素振りすら見せず、指を引っこ抜くこともしなかった。

 流し込まれた血液を吐いたとて、次から次へと新しい血液が流れ込んでくる。出したはずなのに、出したものがまた舞い戻ってくるような不快感。息が苦しい。気持ち悪い。視界がぼやける。吐き出せず、飲み込まざるを得ない血液が体内に入っていく。気持ち悪い。
< 13 / 25 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop