その甘さに、くらくら。
「弓木にとって、そのゲロはゲロの味? それとも、平気で飲めるもの?」

「え……? え……、は、なにそれ、普通に話、進めんの……?」

「どっち? 弓木には、それはゲロ? ゲロじゃない?」

「ちょっと、待て……、俺、今、理解が、追いついて、なくて……」

「弓木、教えて」

「あの、だから……、五月女……、俺のこと、殺そうなんて……」

「俺に、教えて」

 なんだ、これ。話が通じない。会話が成立しない。五月女の両眼は俺を捕らえて離さない。

 口内にまとわりつく血液が、ゴムの味が、急な吐き気を催す。これを五月女はゲロだと言った。ゲロだと思うと、ゴムからゲロの味に変わってしまうような感覚がして、思わず口を押さえた。考えないようにした。ゲロではない。これはゲロではない。ゲロでは。

「弓木、ゲロだよな」

 俺の前で膝を折った五月女の視線が近距離で突き刺さる。ゲロではないと考えようとしているのに、五月女はゲロだと思わせようとする。その意図が読めなかった。五月女の考えていることが分からない。

「ちが、ゲロ……、ゲロじゃ、なくて、俺は、これ……、ゴムの、味が、して……」

「そう」

 そうって、なんだよそれ。お前が何度も聞いてきたんだろ。人の話を聞きもせずに。

 自分からしつこく質問しておきながら、まるで興味がなさそうな冷めた声で適当に返す五月女に不信感を抱くが、強気な態度で抗弁するほどの余裕がこちらにないため、悔しいが何も反論できなかった。嘔吐感が敵愾心を捩じ伏せている。

 俺の心境など知る由もない五月女は、気持ち悪さに口を塞ぐ俺の手を口元から乱暴に剥ぎ、容易に片手を拘束する。
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