その甘さに、くらくら。
「五月女、ごめん……、俺が悪かったから……。何回だって謝るから。それで、済むわけじゃない、けど、俺にはそれしかできないから。ごめん。五月女。ごめんなさい……」

「弓木、責任とって、俺に全部ちょうだい」

 俺の謝罪をまるっきり無視するように、五月女は俺の頭に言葉を降り注いだ。導かれるようにおもてを上げる。瞳孔の開いた目を俺に向ける五月女が、舌で唇を湿らせる。その隙間から覗いた犬歯が、異様に尖っていた。

「さつきめ……」

 無意識のうちに漏れた声が震えている。噛まれたら、発情する。今度は俺が先に、発情させられる。後から五月女、なんてことがあるのか。五月女は俺に、噛ませてくれるのか。

 手を伸ばされる。血塗れ、ゲロ塗れではない方の手。汚れのない手で、髪を撫でられた。指先で梳かれた。その手は暴力的ではなかった。

 鞭の後に与えられる飴を訳も分からずに舐めながら、徐々に取り込まれてしまう俺は、五月女にされるがままで。彼はそんな無抵抗な俺の耳元に顔を寄せた。

「弓木の首を噛んでから、俺はずっと、弓木の血液の味が忘れられない」

 甘い響きを伴って、その声が脳髄を揺らす。くらくらする。頭が働かなくなりそうだ。

 何なんだ、一体。此奴は、一体、何なんだ。同じヴァンパイアなのに、格が違う。違いすぎる。極悪というのは、間違いじゃなかった。勝てない。此奴には、勝てない。こんな奴の首を俺は狙って、許可もなく噛みついたのか。俺は。俺は。危険人物の、首を。
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