その甘さに、くらくら。
 五月女の片手が、俺の髪を触った。弓木、と濡れた声で囁く五月女は、既に壊れかけている俺を更に壊していく。そこに躊躇いなどなかった。涎を止められない。自分がどんどん壊れていくのも止められない。

「弓木、俺のいるところまで、堕ちて」

 最後の言葉が引き金となってしまったかのように、俺の中で何かがパチンと弾けた。五月女にしがみつく。もうどうでもいい。早く血を飲みたい。五月女の血を飲みたい。飲めたらもう、それでいい。それ以外は、どうでもいい。

 目の前が見えなくなる。五月女の世界に引き込まれていく。口を開き、皮膚を噛み、そして、牙を突き立てた。吸血し、口腔を満たすそれが、俺を瞬く間に狂わせる。

 これだ。これを俺は、求めていた。五月女のことを避けていながら、心のどこかでは、ずっとこれを求めていた。欲しがっていた。五月女の血を、欲しがっていた。

 あの時から変わらない、いや、あの時以上に濃く甘い血が、俺を内側から支配する。そのあまりの甘さにくらくらし、視界が明滅した。

 五月女が、俺を取り込むように抱き寄せる。首に息がかかるような感覚がしたと思ったら、先程と同じ箇所を、噛まれた。

 発情を促され、発情を促し、周りが見えなくなるほど夢中になって、俺と五月女は首を噛み合い、欲を満たし合った。このまま、まぐわってしまいそうだった。それでもいいと思ってしまった。

 互いの血を飲み続け、理性が崩壊する中、どちらからともなく唇を離した俺と五月女は、視線を交錯させた。燃える赤眼。垂れる血液。殺し合いをした後のように血塗れで、ゲロ塗れで、それでも、他に類を見ないほどの甘さに、堕ちていく。噛みつき合って、堕ちていく。どこまでも、堕ちていく。
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