『執愛婚』~クリーミー系ワンコな部下がアブナイ男に豹変しました

尾上電子のファイルを開いた、次の瞬間、心臓がトクンと跳ねた。

『今夜 十九時に“風鈴”で』と書かれたメモが貼られていた。

誰が誰に宛てたものなのか、不確かだけれど。
数年開かれなかったファイルを手渡されたのだから、あの人が俺に宛てたものなのは間違いないはず。

昨日のあの続きを話し合う……つもりなのだろう。

ずっと秘めて来た想い。
軽い気持ちが色濃くなって、いつしか熱を帯びるようになり、今では痛みまで伴うほど、俺はあの人が好きだ。

破局して、職場で陰口叩かれても常に凛としていて、必死に平静を装って頑張る姿も。
トラブル続きで処理しきれない難しい案件を部下から擦り付けられるようにされても、余裕な顔して必死に対処する姿も。
寿退社で職場を去ってゆく同僚を涼しい顔で見送る姿も。

ずっと傍で見て来たからこそ分かる。
あの人の心には、何かに葛藤して埋められない何かがある。

失恋で得るものなんて寂しさや孤独感だと思っていたが、彼女が破局で得たものは、それだけじゃない。
だってあの日以来、瞳の奥が悲しいというより、謝罪のような自責の念のようなものを背負ってる気がして。

裏切る行為をしたのなら理解できるが、あの人がそんなことをするはずが無い。
あんなにも幸せそうに毎日過ごしていたのに。

あの人をあそこまで追い詰める何かがあるのだろうが、当事者じゃないから分からない。
その姿があまりにも痛々しくて、気が狂いそうになる。

もう見ているだけの時間は終わった。
何度も何度も考えて、あのレストランに迎えに行ったのだから。

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