若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!
「そのくらいは当たり前だよな、公爵様! なんたって奥様を取り戻せたんだから! 俺にも恋人との時間はあっていいはずだよな!」
「わかった、本当にわかったって……。忘れてないし、その約束は破らないから」

 ジョンズワートからこの言葉を引き出すと、アーティは旅行先候補をあげはじめる。

「ラントシャフトもありかもしれないなあ。いいところだった」
「何か月不在にするつもりなんだ……」
「何か月も不在だった公爵様には言われたくないなあ!?」

 それを言われてしまうと、ジョンズワートもなにも言い返せない。


 ホーネージュの短い春が終わる頃、アーティはまとまった休暇をもらい、恋人との旅行へ。
 行先は、国内だった。
 ラントシャフトなんて言葉も飛び出したが、恋人とともに行くとなれば、戻るまでに何か月もかかってしまう。
 なんだかんだいって、そんな期間にわたってジョンズワートを放置する気はないのだ。
 アーティとチェストリー。この二人が主人に対して抱く気持ちも、背負っているものも違う。
 けれどアーティだって、己の主人で、親友でもあるジョンズワートのことが、どうだっていいわけではないのだ。

 旅立つアーティを見送りながら、ジョンズワートは思う。
 自分は、他者に支えられている、と。
 カレンに再会できたのは、チェストリーがジョンズワートの想いを信じてくれたから。
 手紙をもらってすぐにラントシャフトへ向かうことができたのも、あの農村でカレンの情報を得ることができたのも、アーティが補佐してくれたからだ。
 
「……休暇と旅費ぐらいじゃ、足りないぐらいだよ」

 ジョンズワートの呟きは、誰に届くわけでもなく消えていった。
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