若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!
 アーネスト領の雪まつりは、歴史も長く、規模も大きい。
 1週間ほどにわたって、町全体がお祭りムードとなるのだ。
 そんな勢いだから、雪まつりの会場まで、アーネスト伯爵邸から徒歩で行くことができる。……というより、アーネスト邸も「会場」とされる区域に入っていたりする。
 三人お揃いのコートを着て外に出る。少し歩けば、祭の空気を感じることができた。
 楽しそうに笑い合う子供たち。出店の客引きの声。複数箇所で演奏が行われているようで、音楽がやや重なって聞こえる。年齢性別問わず、みな楽しそうだ。
 
 活発な男の子のショーンが、こんな状況でじっとしていられるわけもなく。
 ジョンズワートに抱き上げられたまま、離せ、とでも言いたげに身体を揺らしている。

「ショーン。危ないから暴れないで? もう少し抱っこさせて欲しいな」
「んー……」

 ジョンズワートも、ショーンが動き回りたがっているのはわかっているが……。
 わかっているからこそ、今、下におろすわけにはいかなかった。
 この人混みの中をさっと走っていかれたら、ジョンズワートでもすぐに捕まえられるかどうかわらかない。
 不服そうなショーンに苦笑しながらも、息子がどこかにいかないようしっかり抱き直した。
 
 息子を抱き上げ、妻と並んで会場を散策する。
 楽しい時間だった。だからか、思い出してしまう。カレンがいなくなったあの日のことを。
 彼女が雪まつりに行きたいと言い出したあのとき、無理に予定を調整してでも一緒に行くと言えば。それ以外のときも、自分も一緒に行きたいと言っていたら。
 自分が、もっと勇気を出して踏み出していれば――妻子との時間を、失わずに済んだのだろうか。
 そんなことを考えてしまい、ジョンズワートは、息子を抱く腕に少しだけ力を込めた。

「ワート様、ワート様!」
「! あ、ああ、カレン。なんだい?」 

 ジョンズワートの思考を引き戻したのは、カレンの声だった。
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