若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!
 カレンは声を弾ませて、ジョンズワートの腕に触れる。
 ハッとして顔を上げると、彼女がある方を指さしているのがわかった。

「子供たちの出し物のステージ、あそこみたいですよ!」

 続けて、行きましょう行きましょうと興奮した様子で言われ、ジョンズワートの唇は弧を描いた。
 そうだ。今日は家族三人で訪れた、初めての雪まつりの日。楽しまなければ、損というものだ。

「うん。行こう。きみがずっと楽しみにしていたステージだ」

 この祭には、子供たちがステージの主役となる日がある。
 身体が弱かったカレンは、この領地を治める家の娘でありながら、そのステージに立ったことはない。
 それどころか、見に行くのも難しいぐらいだった。
 自身も子供だったというのに、ステージに立つことも、見に行くこともできず。
 そんな幼少期だったからか、彼女は子供が主役のこの日が好きだ。
 憧れや心残りのようななにかが、あるのかもしれない。
 今は、年齢が十に届くかどうかの女の子たちが歌を披露しているようだ。
 ステージに近づいていくと、元気いっぱいの可愛らしい歌声が聞こえてくる。

 落ち着いて観覧できるよう、ステージの近くには椅子も用意されている。
 雪をはらってから、二人並んで腰を落ち着けた。

 このときのジョンズワートは、座れてよかった! と心の中で叫んでいた。
 アーネスト邸を出てからここまで、ショーンを抱きっぱなしだったのである。
 ショーンを膝に座らせたことで、だいぶ腕が楽になった。
 デュライト家から連れてきた者やカレンに交代を頼むこともできたが……ジョンズワートは、あえてそうしなかった。
 自分がショーンを抱っこしていたかったのである。
 この子の父親として、家族で祭を楽しむ者として。息子を、離したくなかった。
 そうなのだが、それはそれ、これはこれ。疲れるものは疲れるし、腕だって痛むのである。
 愛があっても、痛いものは痛い。
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