若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!
 やはり、カレンを困らせてしまった。
 わかってはいたことだが、ジョンズワートは胸を押し潰されるような気持ちになった。

 二度目の求婚に、カレンからの返事はない。
 あの一件から、ジョンズワートはカレンに嫌われている。
 会うどころか、まともに話してすらもらえないのだ。嫌われている以外になにがあるというのだろう。
 そんな男から、またしても結婚を申し込まれたのだ。
 それも、公爵家の現当主で、怪我をさせた張本人に。

 最初の求婚をしたときは、まだ15歳と12歳だったが、今は23歳と20歳。
 結婚が現実的なものとなってくる年齢だ。あのときとは、重みが違う。
 断りたくても、そう簡単にはいかないのだろう。すぐには拒絶されなかった。
 カレンには悪いけれど、ジョンズワートにとってこの少しの時間は、己の望みを通すチャンスだった。
 嫌だ、という言葉が出る前に、ジョンズワートは畳みかける。

「カレン。きみはもう、僕のことなんて嫌いかもしれない。けれど、僕はずっと……。幼い頃から、ずっと。きみが好きなんだ。何年経っても忘れられない。きみが他の男と結婚することにも、耐えられそうにない」

 これは、嘘偽りのない、ジョンズワートの本心だ。
 好きな子に怪我をさせ、嫌われ、距離を取られた。
 幼い頃のように、会って話すこともなくなった。
 それでも、ジョンズワートの心はカレンを求め続けていた。
 カレンと過ごした時間が、自分に向けられた笑顔が、忘れられない。
 寝込みがちだった幼少期、ジョンズワートの姿を見てぱあっと輝いた、あの表情を。
 元気になってきた彼女が、「これも見たことがある」「これも知ってる」「ワート様が、教えてくれたから」と微笑んでくれたことを。
 あの穏やかで幸福な時を、忘れることができなかったのだ。
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