若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!
 カレンが他国の農村に流れ着き、新たな暮らしを始めた頃。
 ホーネージュに残されたジョンズワートは絶望し、仕事も手につかなくなっていた。
 妻が誘拐されたうえに、死亡説まで流れ始めたのである。
 始めのうちは必死に山中を捜索していたジョンズワートだが、数週間も経つ頃には「死亡」という言葉がずしっとのしかかってきて、動く力が出なくなってしまった。
 もはや使い物にならないため、今は部下のアーティがジョンズワートの代理を務めている。

 ホーネージュの冬は厳しい。冬季に山で遭難すれば、長くは持たない。しかも、カレンは馬車とともに崖から落ちている。
 落ちた馬車の中やその周辺から、自分がカレンに贈ったものが発見された。
 信じたくはなかったが、カレンは、あの馬車の中にいたのだろう。

「カレン……。カレン、カレン」

 妻を失ってからのジョンズワートは、目から光を失い、愛しい人の名を呼ぶばかり。
 あまりにも痛ましい姿に、彼の親友であるアーティさえも、仕事しろなんて言えなくなっていた。
 伯爵家の三男であるアーティ・クライスは、幼い頃からのジョンズワートの親友で、今は右腕を務めている。
 そんな関係だから、公爵となったジョンズワートに対してもはっきり物を言うし、必要であれば説教だってできる。そんな人物だった。
 そのアーティすらもなにも言えず、ジョンズワートの復帰まで公爵家を繋いでいるのだ。


 カレンが故郷の雪まつりに行きたいと言い出したあのとき、許可を出すべきではなかったのだ。
 ジョンズワートにとって、カレンは本当に可愛くて、愛しい存在だったから。
 彼女の外出の際には、腕の立つ護衛を複数名用意することにしていた。
 アーティなどには、過保護じゃないかとも言われていたぐらいだ。
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