若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!
 この村の家を一軒一軒あたれば、カレンに辿り着くことはできるだろう。
 しかし、この状況では動きづらい。
 どうしたものかと思っていると、アーティが前に出た。
 ジョンズワートのことを肘でつつき、おどけながらこんなことを言い出す。

「彼女、こいつがずっと片思いをしてる相手なんですよ。なんと、片思い歴20年以上! どうしてももう一度会いたいそうで、ここまで探しに来たんです」
「まあ、そうなの? カレリアちゃんも罪な女ねえ」

 アーティは、嘘は言っていない。
 確かに、ジョンズワートはもう20年ほどカレンを想い続けているし、彼女とは気持ちが通じ合わないままだったから、片思いである。
 嘘は言っていないし、警戒を解いて情報を引き出すためにあえて茶化しているのだと、わかってはいるのだが。
 事実を突きつけられ、ジョンズワートはなんともいえない気持ちになった。
 見目のいい男が、しょんぼりとしているからだろうか。
 ジョンズワートを敵視するような視線を向けていた村人たちも、「あらまあ」「元気出せよ兄ちゃん」と彼を哀れむ姿勢に。

「だが、まあ……。カレリアのことは、諦めたほうがいいぜ」
「そうよねえ。あんな旦那と息子がいるんじゃあねえ」
「仲もいいし、今更入り込むのは無理ってもんだよ」

 カレリアという名が、カレンの偽名であることはすぐにわかった。
 だが、しかし。

「……旦那? 息子?」

 想定外の情報に、ジョンズワートの喉がひゅっと鳴った。

「その様子じゃあ、知らなかったみたいだな。カレリアちゃんには、もう旦那も子供もいるんだよ。その旦那も、とびきりの美形でなあ。20年以上片思いしてたっつーあんたには可哀相だが、もう諦めて切り替えな」

 カレンに、夫と子供がいる。
 あまりのことに、ジョンズワートからは言葉が出ない。
 そんな彼に代わって更なる情報を引き出してくれたのは、アーティだ。

「そうか……。カレリア、結婚してたんだな。邪魔はしないようにするから、カレリアがどこにいるのか教えてくれないか? 一目も見ることができずに帰るなんて、流石にこいつが可哀相でさ。こいつは本当にカレリアのことが好きだから、彼女の幸せを壊したりはしない。ただ、少しだけ、見せてやりたい」

 アーティの言葉に、村の者も共感してくれたようで。
 彼女たちの邪魔をしないこと、生活を壊さないことを条件に、カレンたちが住む家を教えてくれた。
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