若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!
 いくつかの国境を越え、ジョンズワートとアーティはラントシャフト共和国に辿り着いた。
 馬車を使ってもよかったが、もっと速度が欲しかったため、それぞれ馬に乗って移動した。
 そのため荷物は最小限で、衣服も旅に適したものとなっている。
 ぱっと見で、彼が公爵だと気が付く者はいないだろう。
 出発までの準備も、家を出てからも、できる限り急いだつもりだったが、手紙が届いてから1月ほどの時が経過している。

 ジョンズワートは、公爵としての仕事でラントシャフトを訪れたことがあったが、カレンがいるという農村のことは知らなかった。
 ジョンズワートが知っているのは、この国のもっと中心の部分である。
 手紙に書かれていた場所は、農業を主産業とするラントシャフトではそう珍しくもない農村だった。
 都会とは呼べないが、飲食店や宿はいくつかあるようだったから、田舎というほど田舎でもない。そんな場所だ。
 人に道を尋ね、地図とのにらめっこも繰り返し。
 ジョンズワートとアーティは、ようやく目的の農村に辿り着いた。

 到着してすぐに、ジョンズワートは聞き込みを開始。

「この女性を探しているのですが」

 ハガキほどの大きさをしたカレンの似顔絵を、最初に見つけた女性に見せる。
 この規模の村なら、すぐにでも情報が得られると思ったのだが――

「あんた、その子になんの用なの?」

 と、睨みつけられてしまった。
 その子、というからには、カレンのことを知ってはいるのだろうが……。
 怪しむように睨みつけられてしまい、それ以上の情報が得られない。
 ここにいるであろうことがわかっただけで、大きな収穫ではあるのだが。
 他の村人も近づいてきたものの、完全に不審者を見る目をされてしまっている。

 村人たちは、わかっているのだ。なにか訳があって、カレンたちがここに流れ着いたことを。
 その上で、彼らはカレンたちを可愛がっている。
 見知らぬ男がカレンについて尋ねてきたら、警戒するのも当然のことだろう。
 この男は、彼女に害をなす者なのではないだろうか、と。
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