若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!
「……俺にとって1番重要なのは、お嬢の幸せだ。だから、誘拐と死亡を偽装すると言い出したあの人にもついていった。ここで暮らすあの人は、幸せそうだった。でも、なにかが足りてなかったんだ。必要なものが欠けているように見えた。……それは、あんただ。ジョンズワート」
「……」
「お嬢も、あんたも、お互いを求めてる。そう思ったから、俺は……! お嬢に無断で、情報を流すなんて真似をしたんだ!」

 本人に言えば、絶対に許可なんておりないから、と、チェストリーは目を伏せながら付け加えた。

 チェストリーが最も大事にしているのは、カレンの幸せだ。
 チェストリーと偽の夫婦になって子を育てるカレンは、幸福であったといえるだろう。
 けれど、ときたま。寂しそうに外を眺めていることがあるのだ。
 なにかが、欠けている。カレンが幸せになるための条件が、満たされていない。
 その足りないピースがなにかなんて、長くカレンの従者をやっているチェストリーにはわかっていた。――ジョンズワートだ。
 しかし、ジョンズワートもカレンを求めて続けていなければ、カレンは余計に傷つくことになる。
 だからチェストリーは、カレンには知らせず、ジョンズワートの動きを調べていたのだ。
 結果、4年経っても、ジョンズワートは再婚もせず、カレンを探し続けていた。
 ジョンズワートの想いが、変わることはない。今度こそ、二人の想いが通じ合う。
 そう思ったから、彼にカレンの居場所を伝えたのである。

「チェストリー……」

 ジョンズワートは、一人の男の想いを受け取った。

「それから……旦那様。この地に、誘拐まで偽装するような知人は、いません」

 ホーネージュから逃げたときとは、話が違う。
 あのときのカレンは、その地で生まれ育った伯爵家のお嬢さんで。
 懇意にしている者たちにも、それだけの計画力と実行力があった。
 だが、しかし。農村に住む主婦にすぎない、今は。これだけの早さで、公爵家を相手に誘拐を偽装できるものなど、いはしない。
 チェストリーの言葉を聞いたジョンズワートの心臓が、どっどっど、と嫌な音を立てた。

「じゃあ、カレンがさらわれたというのは」
「今度は偽装じゃない。本当の事件だ」
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