若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!
「……また、そういうことにするのか」
「は?」
「カレンは本当に、僕のことが嫌なんだね」
「なに言ってんだ! 今の話、聞いてたか!?」
「聞いてたよ。カレンがさらわれたんだって? 前と同じだ。今回もそうやって僕から逃げるつもりなんだろう? もうわかったから、そんなことしなくていい。僕は彼女の前から消える。ショーンのことも認知しない。自由に生きて欲しいと、カレンに伝えてくれ」

 4年前にカレンが姿を消したとき、彼女は誘拐と死亡を偽装したから。
 ジョンズワートは、カレンが今回も同じ手を使って逃げようとしているのだと思い込んでしまった。
 二度も誘拐を装って逃げるほどに嫌なら、もう、彼女を追いかけはしない。
 それはジョンズワートなりの愛であったのだが。
 彼の言葉を聞いたチェストリーは足音をたてて乱暴にジョンズワートに近づいて、がっと両肩を掴む。チェストリーの手に力がこもり、ジョンズワートの肩は鈍い痛みを覚えた。

「……聞け、ジョンズワート」
「っ……!」

 あまりにも真剣な瞳と迫力に、同じ男であるジョンズワートも、思わず息をのんだ。

「お嬢の情報を流したのは俺だって、言ったよな。あんたがお嬢を探し続けるから、今度こそ、と思ったんだ。本当にお嬢のことが好きなら、まだ諦めていないなら、意地でも手を掴んでくれ。……あの人を幸せにしてくれよ。あんたじゃないとできないんだよ!」

 最後の言葉は、叫びにも近かった。
 チェストリーは、苛立ちを表に出しながらもジョンズワートから手を離す。
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