新そよ風に乗って ⑥ 〜憧憬〜
さっきの剣幕とは打って変わって、優しくまゆみは私の手を握ってくれたので、その優しい声にホッとしてウトウトしてしまった。
ピンポーン。
ハッ!
チャイムの音に驚いて目が覚めると、まゆみがドアまで走っていく姿が見えた。その一部始終を寝ながら目で追っていると、覗き窓からまゆみが外を確認して直ぐにドアノブを持った。
まさか……。
本当に、中原さんは高橋さんを連れて来たの?
ドアが開き始めたので、咄嗟に毛布の端をギュッと握りしめた。
嘘でしょう?
まゆみがドアを開けると、そこには高橋さんが立っていた。
「入ってもらっていいですか?」
「……」
どうしよう。
高橋さんが、部屋の中に入ってきてしまう。
寝ているところを見られるの、嫌だもの。起きなくちゃ。
「神田さん。俺は、宴会場で場つなぎしてるから」
「あっ。助かります。よろしくお願いします。中原さん。ありがとうございました」
「いや……それじゃ」
高橋さんの姿で遮られて見えなかったが、ドアが閉まる音がして中原さんは宴会場に行ってしまったようだった。
「事情は、中原から聞いた。大丈夫か?」
高橋さんは、そう言いながらこちらに向かってきて、椅子の上に書類とバッグを置いた。
「はい。すみません。ちょっと、目眩がしただけですから」
「ちょっと目眩がしただけじゃないでしょう? 陽子。誰のせいでこうなったのか、ちゃんと言ってやりなさいよ」
「まゆみ! 何てことを言うの?」
あまりに酷い言い方をするまゆみに驚いて飛び起きたが、その拍子で部屋の中の景色がグルグルと回って見えて気持ち悪さに目を瞑ってしまった。
「ほら!みなさい。陽子は寝てな。ここからは、私と高橋さんの話だから」
まゆみは、私を無理矢理ベッドに押しつけるようにして寝かせると、高橋さんに向き直った。
「高橋さん。きっと頭の回転が速いから、私の言わんとしていることは察していらっしゃると思いますけど」
「……」
高橋さんは、真っ直ぐまゆみを見ている。
「恋愛のことは、当人同士にしか分からないことなので、いちいち言いたくはありませんが、敢えて全てを含んだ上で言わせて頂きます」
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