新そよ風に乗って ⑥ 〜憧憬〜
「あの、本当に大丈夫ですから降ろして下さい」
「フッ……。いいから、大人しくし・て・ろ」
うわっ。
近い! 近過ぎですってば、高橋さん。
久しぶりに間近に迫った高橋さんの顔に、ドキドキしながら心臓の鼓動がバクバクいっている。
高橋さんが目の前に居て、まして抱っこまでされてしまって……。こんなエレベーターの中でなんて。免疫が出来ていないから、体に変な力が入ってしまっている。
今、きっと顔が真っ赤だ。
エレベーターを降りて駐車場内を進んでいくと、見慣れた車の前で高橋さんが立ち止まった。
ドアを開けて私を助手席に座らせて、シートを倒して寝かせてくれた。
「すみません……」
そして、車を発進させるとホテルと同じ駅の反対側に明良さんの勤めている病院はあるので、5分ぐらいで病院に着いてしまった。
夜間救急外来の受付で高橋さんが明良さんを呼んでもらうと、程なくして明良さんが来てくれた。
「陽子ちゃん。大丈夫?」
明良さんは、私の頭にそっと触れた。
「はい。すみません、ご迷惑をお掛けして」
「謝らなくていいよ。誰だってサイボーグじゃないんだから、具合が悪くなる時もあるでしょう。そのために、医者が居るんだから。でなきゃ、俺達が干上がっちゃうじゃない」
明良さん……。
「取り敢えず、診察するから貴博は待合室で待ってて」
「ああ。頼むな」
明良さんに言われて、高橋さんは診察室から出て行った。
「大丈夫? どこか痛いとか、辛いとか感じるところはある?」
「立っていると少しクラクラするというか、目眩がして……」 
「そう。ちょっと診せてね」
明良さんは、私の首の後ろや下瞼等を触診した後、聴診器を当てた。
「熱もないし貧血気味だけど、それほど酷い貧血でもないようだし……食事、ちゃんと摂れてる?」
「えっ?」
「夜、眠れてる?」
そう言えば、ここのところあまり食べられないし、夜中に何度も目が覚めたり寝就きが悪かったりしている。
「食事が摂れなくて、更に質の良い睡眠が取れていないと、途端に体が悲鳴をあげるから。まして、陽子ちゃんみたいに日頃から殆ど蓄積のない人は尚のこと」
「ごめんなさい」
「点滴して栄養入れて、早くパワーつけよう。直ぐに元気になるから」
「はい」
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