新そよ風に乗って ⑥ 〜憧憬〜
「こんばんは」
「まだ、雨は降ってなかったですか?」
「降ってないですね」
「予報も、割と外れますからね」
「マスター。ちょっと栄養補給したいので、消化のいいものを作って貰えますか?」
高橋さん……。
「かしこまりました。相変わらず、お忙しいのですね。お飲み物は、如何致しましょう」
「そうだな……運転だから、ウーロン茶で。お前も、今日はウーロン茶でいいな?」
「あっ。はい」
「承知しました。少し、お待ち下さいませ」
マスターは、先にウーロン茶を持ってきてくれると、暫くして蓋を開けると食べるのがもったいないと思えるほどの和食のあっさり系で、その上、お肉等も入っている松花堂弁当のデラックス版のような食事を出してくれた。
「綺麗……」
高橋さんを見ると、高橋さんも蓋を持ったまま嬉しそうな表情でジッと器の中身を見ていた。
「マスター。味も最高なんでしょうが、まさしく見て日本料理の極みですね」
「ありがとうございます。見て日本料理。食して中華、でしたっけ?」
きっと知っているはずのマスターの嫌味のないこの謙虚さが、常連さんを増やすのだと思う。
「どうぞ、ごゆっくり」
色とりどりに盛りつけられた食材を目の当たりにして、本当に久しぶりに食べたい衝動にかられ、まず卵焼きに手を付けた。
「フッ……。卵焼きからいくあたり、やっぱりまだガキだよな」
うっ。
また、ガキ扱いされてしまった。
「い、いいじゃないですか。どれから食べてもぉ。何時、停電とかがあって食べられなくなるかもしれないんですから」
「また、そのムキになるところがねぇ」
「高橋さん!」
「はい」
高橋さんが、悪戯っぽく笑いながらこちらを見ている。
もう、知らない。
むくれながら、視線を器に戻した。
「食べられるだけ、食べろよ」
エッ……。
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