新そよ風に乗って ⑥ 〜憧憬〜
「では、高橋君。続きを」
「はい」
社長に言われて、高橋さんは立って一礼したが、それと同時に会議室のドアが開いて中原さんが入ってきた。
中原さん?
「失礼します」
そう言って中原さんは一礼すると、素早く高橋さんを見つけて駆け寄って書面を渡し、直ぐにまた一礼して中原さんは会議室を出て行った。
「失礼致しました。先ほど、社長からお話がありましたLCC路線に、新たに日本エアグループの参入がかねてより予想されておりましたが、その就航時期が今分かりました。日本エアグループのLCC路線参入は、8月に決定したそうです」
「8月?」
「そんなに早く……」
「早過ぎる」
高橋さんの言葉に、取締役が一斉にざわめき出した。
そんな……。
せっかく苦労して、LCCの提携航空会社と契約してやっと来月から就航という時に。まさか、日本エアグループが追随するように直ぐに参入してくるなんて。
「それは、確かな情報かね?」
ひそひそ話す取締役達の声を掻き消すように、社長の低い声が会議室に響くと一瞬にして静まり返った。
「はい」
高橋さん……。
「本当なのか」
「うちの会社は、どうなるんだ?」
「日本エアグループが参入してきたら、たちまち向こうに顧客を取られてしまう。到底、総力戦でいったら今の我が社の力では、太刀打ち出来ない」
「間違いなく、潰される」
取締役は、口々に悲嘆の声をあげている。
「始まる前から、既に両手を挙げていてどうするんだ」
社長が、悲嘆の声を遮るような口調で言った。
「でも、社長」
「企業に、『でも』もなければ、『していれば』等という否定も仮想も存在しない」
「しかし、今のこの状況では・・・・・・」
取締役の声を無視するように、黙って社長は高橋さんの方をジッと見つめていたので、取締役達も不思議そうに社長の視線の先を追って高橋さんを見た。
「そんなホットな情報をこの場で言うからには、何か考えがあってのことだろう。その先を聞こうか」
すると、高橋さんは先ほどよりも少し深めにお辞儀をしてテーブルの上に置いてあったもう1つの書類を持った。
「4月から運航を予定しておりますLCC路線に関しまして、当初の予定では10月を目処に増便する予定でおりましたが、一旦その件は白紙に戻し、新たに我が社のセールスポイントでもあり強みでもあります、国内線に於けるLCC路線の拡大を図ってみてはどうかと思います。
「ほ、ほう。国内線か」
「はい。国際線での勝負は、時期尚早かと思われます。その分、国内線に焦点を当て……」
「時期尚早とは、どういう意味だ。僭越だぞ。君が1人で決めている訳じゃないんだぞ」
「そうだ。偉そうに言うな。出鼻を日本エアグループに挫かれたものだから、その穴埋めのように繕っているだけじゃないのか?」
何なんだろう。この人達のものの言い方は。文句ばっかり言うんだったら、自分で案を出せばいいのに。
「誰が、僭越なんだ? 誰が、偉そうなんだね? 何も出来ない、何もしないできて、今更何を遠吠えている。何も出来なかったからこそ、此処まで来てしまったんじゃないのか。何故、人の意見を最後まで聞かん。何故、反対ばかりして、人の意見に耳を傾けようとしない。人の意見を聞かぬ者は、所詮、狭き場所でのお山の大将でしかない。そんなお山の大将にこそ、一企業を任せるなど恐ろしくて出来ない」
「……」
「これ以上、私に言わせるな。同じ事を言わせて、時間を使わせるな」
社長の吐き捨てるような声に、話の途中で口を挟んだ取締役は下を向いて小さくなっていた。
「続けて」
「はい。その国際線にかける部分を国内線にかけ、言い方は悪いですが、日本エアグループが総力をあげて導入してくるLCC国際線の動向を調査してから、我が社の国際線既定路線の拡大を図っていっても遅くはないかと思います」
「なるほど。あちらさんの集客具合と人気路線を見てから拡大、縮小を決めても遅くはないということか。その方が、確かに余計なコストは最小限に抑えられる」
「はい」
社長に言われて、高橋さんは立って一礼したが、それと同時に会議室のドアが開いて中原さんが入ってきた。
中原さん?
「失礼します」
そう言って中原さんは一礼すると、素早く高橋さんを見つけて駆け寄って書面を渡し、直ぐにまた一礼して中原さんは会議室を出て行った。
「失礼致しました。先ほど、社長からお話がありましたLCC路線に、新たに日本エアグループの参入がかねてより予想されておりましたが、その就航時期が今分かりました。日本エアグループのLCC路線参入は、8月に決定したそうです」
「8月?」
「そんなに早く……」
「早過ぎる」
高橋さんの言葉に、取締役が一斉にざわめき出した。
そんな……。
せっかく苦労して、LCCの提携航空会社と契約してやっと来月から就航という時に。まさか、日本エアグループが追随するように直ぐに参入してくるなんて。
「それは、確かな情報かね?」
ひそひそ話す取締役達の声を掻き消すように、社長の低い声が会議室に響くと一瞬にして静まり返った。
「はい」
高橋さん……。
「本当なのか」
「うちの会社は、どうなるんだ?」
「日本エアグループが参入してきたら、たちまち向こうに顧客を取られてしまう。到底、総力戦でいったら今の我が社の力では、太刀打ち出来ない」
「間違いなく、潰される」
取締役は、口々に悲嘆の声をあげている。
「始まる前から、既に両手を挙げていてどうするんだ」
社長が、悲嘆の声を遮るような口調で言った。
「でも、社長」
「企業に、『でも』もなければ、『していれば』等という否定も仮想も存在しない」
「しかし、今のこの状況では・・・・・・」
取締役の声を無視するように、黙って社長は高橋さんの方をジッと見つめていたので、取締役達も不思議そうに社長の視線の先を追って高橋さんを見た。
「そんなホットな情報をこの場で言うからには、何か考えがあってのことだろう。その先を聞こうか」
すると、高橋さんは先ほどよりも少し深めにお辞儀をしてテーブルの上に置いてあったもう1つの書類を持った。
「4月から運航を予定しておりますLCC路線に関しまして、当初の予定では10月を目処に増便する予定でおりましたが、一旦その件は白紙に戻し、新たに我が社のセールスポイントでもあり強みでもあります、国内線に於けるLCC路線の拡大を図ってみてはどうかと思います。
「ほ、ほう。国内線か」
「はい。国際線での勝負は、時期尚早かと思われます。その分、国内線に焦点を当て……」
「時期尚早とは、どういう意味だ。僭越だぞ。君が1人で決めている訳じゃないんだぞ」
「そうだ。偉そうに言うな。出鼻を日本エアグループに挫かれたものだから、その穴埋めのように繕っているだけじゃないのか?」
何なんだろう。この人達のものの言い方は。文句ばっかり言うんだったら、自分で案を出せばいいのに。
「誰が、僭越なんだ? 誰が、偉そうなんだね? 何も出来ない、何もしないできて、今更何を遠吠えている。何も出来なかったからこそ、此処まで来てしまったんじゃないのか。何故、人の意見を最後まで聞かん。何故、反対ばかりして、人の意見に耳を傾けようとしない。人の意見を聞かぬ者は、所詮、狭き場所でのお山の大将でしかない。そんなお山の大将にこそ、一企業を任せるなど恐ろしくて出来ない」
「……」
「これ以上、私に言わせるな。同じ事を言わせて、時間を使わせるな」
社長の吐き捨てるような声に、話の途中で口を挟んだ取締役は下を向いて小さくなっていた。
「続けて」
「はい。その国際線にかける部分を国内線にかけ、言い方は悪いですが、日本エアグループが総力をあげて導入してくるLCC国際線の動向を調査してから、我が社の国際線既定路線の拡大を図っていっても遅くはないかと思います」
「なるほど。あちらさんの集客具合と人気路線を見てから拡大、縮小を決めても遅くはないということか。その方が、確かに余計なコストは最小限に抑えられる」