新そよ風に乗って ⑥ 〜憧憬〜
「や、やめて下さい。明良さんったら、もう! 茶化さないで下さい」
そんなことを言われたら、恥ずかしくて高橋さんの顔をまともに見られなくなっちゃうじゃない。
「ハハッ……。陽子ちゃん。かぁいい」
「もう、明良さん!」
思いっきり抗議をしようとしたところで、トイレから高橋さんが出てきてしまった。
「なーに、精神年齢が同じような2人で、言い争っているんだ?」
はい?
「言い争ってなんか、いないよ。ただ、陽子ちゃんに出張はチャンスだ……」
「あ、明良さん!」
「おお、怖い。陽子ちゃん。本当のことを言われると、人間ってムキになるって知ってた?」
「し、知りません」
明良さんが、やけに得意満面な顔をしている。
「そうでしょう。思いっきり分かりやすい性格の陽子ちゃんからしたら、俺なんか悪魔に……」
「見える」
「おっと、貴ちゃん?」
明良さんの言葉を、高橋さんが遮った。
「またまたぁ」
「見えるどころか、そのものだろ?」
確かに。
ハッ!
思わず、口に出てしまったんではないかと思い、慌てて両手で口を覆った。
「そんなぁ。貴ちゃんったら、どうしてそんなにこの女神のような……いや、違う。貴方のナイトのような明良様を虐めるの? こんなに尽くしているのに」
「……」
「それとも、貴ちゃん。S?」
「くだらないこと言ってないで、後片付けでもしろ」
高橋さんが、S?
「陽子ちゃん。酷い扱いだと思わない? 俺、こんなに尽くしているのに、邪険にされて」
「それは、その……」
私も、明良さんが悪魔に見える時が偶にあります。とは、流石に言えなかった。
「もう遅いから、送って行くぞ」
時計を見ると、0時を過ぎている。
「えっ? あっ……すみません。でも、電車もまだありますから。高橋さん。駅までで、大丈夫ですから」
本当は、1人で駅まで歩いて行けばいいのだけれど、駅まで少し遠いので歩いていく自信がなかった。
「ほら、行くぞ」
「は、はい。それじゃ、明良さん。ご馳走様でした。とっても、美味しかったです」
「それは、良かった。また、おいでね」
「明良。此処、俺の家」
「あっ、そう。それじゃ、ナイトの俺の家でもあるわけだ」
高橋さんに釘を刺されても、明良さんは全くお構いなしで平気な顔をしている。
プッ……
本当に、高橋さんと明良さんの会話は面白いな。
玄関で明良さんに別れを告げ、エレベーターに乗って下の駐車場に向かう。
「あの、すみません。本当に、駅までで大丈夫ですから」
「駅までも、家までも同じようなもんだろ」
「そんなことないです。駅までの方が、ずっと近いですから」
「フッ……。直ぐ帰ったら、また煩い明良の餌食になるだけだろ?」
プッ!
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