新そよ風に乗って ⑥ 〜憧憬〜
「そうだな。我が社も、もし今墜ちたりしたらそれは大変だ」
「昔、ありましたな……」
「ええ。もう忘れたいですよ」
「当事者は、忘れられないんですよ」
エッ……。
「たとえ忘れたくても、忘れられないのです」
高橋さん?
その声は、震えていた。
「搭乗者数300何人の命。それは、数字の問題ではありません。あってはならない飛行機事故が、もし海外で起こっていても、当事者でなければ私達は哀悼の意はあっても、不謹慎な言い方ですが、時が経てばそれが自分にとって切羽詰まるほどの重要な問題だとは思わなくなる。いえ、思えないものです。ですが、身内にその事故に遭った当事者が居たとしたら、それは辛い日々が今も続いているはずです。でも、私達は当事者でない限り、何かの機会にその事故のことを思い出すことはあっても、いずれ忘れてしまいます。それが、人間というものです。しかし、その事故で家族や大切な人を失った当事者は、たとえ忘れたいと思っても、それはずっと永遠にその日のことを思い出して辛いのです。身近に感じられなければ、大惨事になったことでもその記憶は薄れてしまいます。それは、テロにしても天災にしても同じです。勿論、飛行機事故にしても。その場合、失われた命が多い、少ないは関係ないんです。当事者にしたら、身内1人の死の方が、何十万人の死よりも哀しく辛い。何万人の命が奪われたとしても、300何人の命が奪われたとしても、その当事者でなければ思いは同じだと思います。ですが……飛行機事故によって、300何人もの命が奪われるということは、誰かの言葉を借りれば300回事故が起きる。若しくは、300回事故が繰り返されることと同じなんです。その1回の事故に、自分の身内が遭遇してしまった場合、どんなに辛いでしょうか。数ではないんです。そう考えれば、大変なことなんです。こういう仕事に携わっているものとして、飛行機事故はあってはならないことですが、それは忘れても、忘れたいと思ってもいけないのです」
高橋さん……。
「昔、ありましたな……」
「ええ。もう忘れたいですよ」
「当事者は、忘れられないんですよ」
エッ……。
「たとえ忘れたくても、忘れられないのです」
高橋さん?
その声は、震えていた。
「搭乗者数300何人の命。それは、数字の問題ではありません。あってはならない飛行機事故が、もし海外で起こっていても、当事者でなければ私達は哀悼の意はあっても、不謹慎な言い方ですが、時が経てばそれが自分にとって切羽詰まるほどの重要な問題だとは思わなくなる。いえ、思えないものです。ですが、身内にその事故に遭った当事者が居たとしたら、それは辛い日々が今も続いているはずです。でも、私達は当事者でない限り、何かの機会にその事故のことを思い出すことはあっても、いずれ忘れてしまいます。それが、人間というものです。しかし、その事故で家族や大切な人を失った当事者は、たとえ忘れたいと思っても、それはずっと永遠にその日のことを思い出して辛いのです。身近に感じられなければ、大惨事になったことでもその記憶は薄れてしまいます。それは、テロにしても天災にしても同じです。勿論、飛行機事故にしても。その場合、失われた命が多い、少ないは関係ないんです。当事者にしたら、身内1人の死の方が、何十万人の死よりも哀しく辛い。何万人の命が奪われたとしても、300何人の命が奪われたとしても、その当事者でなければ思いは同じだと思います。ですが……飛行機事故によって、300何人もの命が奪われるということは、誰かの言葉を借りれば300回事故が起きる。若しくは、300回事故が繰り返されることと同じなんです。その1回の事故に、自分の身内が遭遇してしまった場合、どんなに辛いでしょうか。数ではないんです。そう考えれば、大変なことなんです。こういう仕事に携わっているものとして、飛行機事故はあってはならないことですが、それは忘れても、忘れたいと思ってもいけないのです」
高橋さん……。