新そよ風に乗って ⑥ 〜憧憬〜
「申しわけありません。本題から逸れてしまいました。従いまして、安心、安全に重点を置いている顧客の中には、そういうことを見聞きしたりしている人達も含まれているということです。決して、他人事ではなく、顧客の立場に立って考えた時、やはり当初からLCC路線のみにしてしまうというのは、顧客のニーズを捉えきれていないように思われます」
淡々と話していた高橋さんだったけれど、それは何かを悟ったような話し方に聞こえた。
「そうだな。我が社のイメージというものもある。国内線のLCC路線に関しては、日本エアグループの参入の件もあるから来期の最重要課題として、次回の会議で再度詰めよう。みんなも、資料や情報をあげてきてくれ。高橋君。それで、いいかな?」
「はい。ありがとうございます」
高橋さんは、その後、決算の見込み数字をレジメに沿って説明を終えると席に着いた。
各取締役の報告が終わり、最後に社長の総評になった。
「今年度も、もう直ぐ終わりになる。既に来期の目標に向けての取り組みに掛かっているわけだが、1つ最後に言い忘れたので付け加える。優秀な人材とは、という話が出たが、優れた人間というものは憂いを経験してこそ、その経験の数だけ優れていく。それと同時に、憂いを味わった分だけ人に優しくなれるということだ。人に優しく出来る人間に、君達もなってくれ。以上」
人に優しく出来る人間に。
社長の言葉は、今日の会議でいちばん大切なことだった気がした。
「それでは、これをもちまして、今年度決算予測報告会、並びに来年度予算案についての会議を終了致します。ありがとうございました」
進行役の挨拶が終わると、一斉に取締役達が書類を持って立ち上がり、話しながらドアの方に向かって歩き出した。
「矢島さん。お疲れ」
あっ。
「お疲れ様でした。ありがとうございました」
「それにしても・・・・・・高橋さんは、孤独だな」
「えっ? 孤独?」
「うん」
「そ、それは、どうしてですか? 何故、高橋さんが……」
「いや、勝手に俺がそう思ってるだけかもしれない」
柏木さん。
淡々と話していた高橋さんだったけれど、それは何かを悟ったような話し方に聞こえた。
「そうだな。我が社のイメージというものもある。国内線のLCC路線に関しては、日本エアグループの参入の件もあるから来期の最重要課題として、次回の会議で再度詰めよう。みんなも、資料や情報をあげてきてくれ。高橋君。それで、いいかな?」
「はい。ありがとうございます」
高橋さんは、その後、決算の見込み数字をレジメに沿って説明を終えると席に着いた。
各取締役の報告が終わり、最後に社長の総評になった。
「今年度も、もう直ぐ終わりになる。既に来期の目標に向けての取り組みに掛かっているわけだが、1つ最後に言い忘れたので付け加える。優秀な人材とは、という話が出たが、優れた人間というものは憂いを経験してこそ、その経験の数だけ優れていく。それと同時に、憂いを味わった分だけ人に優しくなれるということだ。人に優しく出来る人間に、君達もなってくれ。以上」
人に優しく出来る人間に。
社長の言葉は、今日の会議でいちばん大切なことだった気がした。
「それでは、これをもちまして、今年度決算予測報告会、並びに来年度予算案についての会議を終了致します。ありがとうございました」
進行役の挨拶が終わると、一斉に取締役達が書類を持って立ち上がり、話しながらドアの方に向かって歩き出した。
「矢島さん。お疲れ」
あっ。
「お疲れ様でした。ありがとうございました」
「それにしても・・・・・・高橋さんは、孤独だな」
「えっ? 孤独?」
「うん」
「そ、それは、どうしてですか? 何故、高橋さんが……」
「いや、勝手に俺がそう思ってるだけかもしれない」
柏木さん。