新そよ風に乗って ⑥ 〜憧憬〜
そんな日々を送っているうちに、気がつけば今年のカレンダーも残り2枚となってしまった11月に入っていた。
「おはようございます」
佐藤君が、朝っぱらからやって来た。
ああ……。
佐藤君=旅行の打ち合わせの方程式。
それだけで何だか憂鬱なのに、朝から佐藤君の姿を見てしまうと尚一層、それに拍車が掛かってしまう。
「皆さんにお配りする旅行の冊子が出来たので、置いて行きますね」
佐藤君は、私の机の上に人数分の3冊を置いてくれた。
「ありがとう。私も、一緒に配ろうか?」
「大丈夫です。会計さんで、終わりですから。そうだ。もう殆ど打ち合わせる内容もないので、あとは11月21日の金曜日に最後の打ち合わせでいいですか?」
「はい。よろしくお願いします」
「それじゃ」
それだけ言うと、そのまま佐藤君は席に戻って行った。
あの一件以来、佐藤君はというと、今まで通りに変わらず接してくれているのでとても有り難かった。
もう、月末は部内旅行なんだ。 
早いなぁ……。
去年の11月は、何をしていたんだろう?
1年前を思い出しながら、高橋さんと中原さんに旅行の冊子を渡した。
「あっ! 俺は、林と一緒の部屋だ」
中原さんが、旅行の冊子を捲りながら呟いている。
クスッ……。
中原さんって、大人なんだか、子供なんだか。
でも、私の左斜め前に座っている人もねぇ……。
大人なんだか、子供なんだか、偶に分からなくなる時がある。
男の人って、みんなそうなのかな?
そんなことをボーッと考えながら、高橋さんを見ていた。
ヒッ!
不意に高橋さんと目が合ってしまい、慌てて旅行の冊子で顔を隠したが、気になってそっと冊子をずらして覗くと、高橋さんは書類に目を通していたので、はっきりとは読み取れなかったが、口元がほんの少し微笑んでいるように見えた。
9月の決算が終わってから、毎週金曜日は旅行の打ち合わせをしていたので、旅行の冊子も出来上がって配布も終わった金曜日。久しぶりに今日は真っ直ぐ帰れると思うと朝から気分的に楽だった。
退社時間になって机の上のものを片付けながら、久々に早く帰れるからあのテレビドラマも観られる等と思って帰る準備をしていた。
「ちょっと、いいかしら?」
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