新そよ風に乗って ⑥ 〜憧憬〜
高橋さんに対するこの気持ちは、日ごとに増していくことにも気づいていた。
いつもと同じように高橋さんと目が合えば、ドキドキしながら胸がキュンとなる。でも、何かが自分の中で変わりつつあった。

相変わらず頻繁に土屋さんは、高橋さんの席によく来ていたし、高橋さんもあの帰りに聞いた土屋さんのことに対しての返事もない。しかし、敢えてそのことを再度聞こうとも思わなかった。
そんな思いを胸に、部内旅行の準備と出張の準備がまた重なって、今年は前回のように間際になってから焦ってパッキングすることにならないよう、早めに準備を始めていたが、そこで1つ高橋さんに聞かなければならないことが出て来た。
前回、高橋さんが持って来てくれたイトウのご飯のことを思い出し、今回は半分自分で持って行った方がいいと思っていたが、ダブってしまってもいけないので、高橋さんに聞いてみようと思いつつ、機会を窺いながら週末を迎えていた。
退社時間になってそのことを思い出し、ちょうど高橋さんも席に居て電話もしていなかったので、聞いてみようと帰り支度をしてから高橋さんの席に向かった。
「高橋さん。お聞きしたいことがあるのですが……」
すると、書類に書き込みをしていた高橋さんがペンを止めて横に立っている私の方を見た。
「この間の件だったら、悪いが応えられない」
エッ……。
この間の件?
「この間の件……ですか?」
「土屋とのことだ」
あっ……。
思ってもみなかったことをいきなり切り出されたが、まるで高橋さんは私に予防線を張っているみたいに思えた。
「い、いえ……すみません。あの、そのことではなくて……。出張の件なのですが……」
ここで構えてしまうと、また何も言えなくなってしまうので、高橋さんに言われたことはスルーして切り出したのだが、尻つぼみになってしまった。
「何?」
先ほど、土屋さんの件だと勘違いしたこと等、気にも留めずにいつもと変わらない高橋さんの態度に益々動揺しそうになって、咄嗟にバッグを腕に掛けていた右手にギュッと力を込めて拳を作っていた。
「今回は、私もイトウのご飯を持って行こうと思いまして……それで、何個ぐらい持って行ったらいいのかお聞きしたかったんですが……」
何だか、居たたまれない。
私が悪いように感じられるのは、惚れてしまった弱みというのか、高橋さんが苦境に立たされるのはやっぱりいい気分はしない。
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