新そよ風に乗って ⑥ 〜憧憬〜
私、どうしたらいいの?
今、どうするべきなんだろう?
返答に困ってしまい、黙ったまま苦しくてもう泣きそうだった。
「渡したいものがあるから」
「えっ?」
渡したいもの?
私に、渡したいものって……。
何だろう?
「お前、会社に大事なものを忘れてるぞ」
エッ……。
「あ、あの、今……今、開けます」
大事なもの?
大事なものって、何だろう?
差し当たって、思い当たらない。
いろんな複雑な思いを胸に、ゆっくりと玄関に向かって歩き出した。
玄関に近づくにつれて、心臓が飛び出そうなほど鼓動も早く耳に響いて来る。
大きく深呼吸をして気持ちを落ち着かせようと、必死に両手をギュッと組み合わせた。
冷静に……ね。
別に、喧嘩をしているわけじゃないんだもの。
勝手に1人で悩んで、勝手に思いを張り巡らせているだけなんだから。
そう自分に言い聞かせながら、施錠を外してドアノブに手を掛けた。
閉ざしかけた今の私の心のように、自信なくドアがそっと静かに開いていく。
うわっ。
いきなり向こう側からドアを引っ張られ、少しだけ開き掛けていたドアが勢いよく全開になってしまった。
そして、ドアを引っ張られた拍子に私もドアと一緒に引っ張られてしまい、危うく外に飛び出てしまいそうになったが、高橋さんがドアを持ってくれていたので、勢いで飛び出そうになった私を高橋さんが受け止めて、そのまますっぽり胸の中に飛び込んだ形になってしまい、慌てて後ろに下がった。
「す、すみません」
何をやっているんだろう。
こんな時に、恥ずかしい。
「はい」
エッ……。
下を向いている私の顔の前に、高橋さんが見覚えのあるものを差し出した。
< 174 / 311 >

この作品をシェア

pagetop