新そよ風に乗って ⑥ 〜憧憬〜
その日の一件以来、何となく高橋さんと顔を合わせるのが気まずくなり、自然と自分から高橋さんを避けるようになったまま、とうとう旅行の当日を迎えてしまった。
当日は、幹事ということもあって少し早めの15時半に会社を出て、佐藤君と2人で先にホテルへと向かったが、幹事は何かと忙しいし食事も出来るかどうか分からなかったので、佐藤君とホテルに行く前に少し食べてから行くことにした。
ホテルに着いてからは準備に追われ、思いの外あっという間に時間が経ってしまい、準備もギリギリ間に合って旅行の食事会が宴会場で実施された。
あちらこちらから色々呼ばれて、一息つく暇もなかったが、そのお陰で土屋さんや川本さんをはじめ、その取り巻きが高橋さんを囲んで飲んだりしていたが、それどころではなくて殆ど気にならなかった。
そう言えば、高橋さんと土屋さんの2ショットを見掛けても、最近は前ほど胸も痛まなくなったし、気にならなくなっている。
もう、高橋さんと駄目なのかな?
そんな考えさえ、思い浮かべてしまう。
怒濤の忙しさの宴会も終わり、後は自由行動になってひと仕事を終え、少しホッとしながらステージ横の衝立で仕切られた裏で後片付けをしていると、何処からか会話が聞こえて来た。
「もし良かったら、これから高橋さんの部屋か、私の部屋でやりません?」
エッ……。
土屋さんの声が、衝立のこちら側に居てもはっきりと聞こえてきた。
きっと、私が此処に居ることに気づいていないのかもしれない。
「ああ、いいですよ」
嘘!
高橋さん……。
やっぱり、幾ら気にならなくなっていたとはいえ、直ぐ傍でそんな光景や会話を目の当たりにしてしまうと辛い。
「良かったぁ。だって、高橋さん。もう直ぐアメリカに行っちゃうから、物凄く寂しいし心細くって。それじゃ、隣同士のお部屋だし、どっちでも……私のお部屋でもいいですよ」
会話の声が段々遠のいて小さくなり、こっそり衝立の端から覗いて見ると、高橋さんと土屋さんは宴会場を出て行くところだった。
もう……無理……なのかな。
高橋さんのことは好きだけれど、今の私にはこういう状態は耐えられない。
先ほどの2人の会話を振り払うように、黙々と片付けに没頭した。
「終わった?」
エッ……。
佐藤君の声じゃない。
聞き覚えのある、この声は……。
声のする方へ顔を向けると、中原さんが飲み物やスナック菓子等が一杯入った袋を抱えて立っていた。
「中原さん。どうしたんですか? そ、そのドリンクとお菓子の量は……」
「ああ、これ? いろんなところから頂戴してきた。あれ? 佐藤は?」
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