新そよ風に乗って ⑥ 〜憧憬〜
「大丈夫ですよ」
しかし、そう言われただけで、その後も2人は何やら会話を続けている。
もっと飲めば、気持ち良く眠れるかな。
酔えば、高橋さんのことが頭から離れるかな。
「だから、佐藤は……」
中原さんと佐藤君は、何だか熱く語っているみたいだし、私ももう少し飲もう!
ちょうど、中原さんの傍に置いてあった缶を勝手に開けて飲んでみると、サワーの味がした。
うん。ジュースみたいで、美味しいかも。
「でも、それは中原さん。俺は違……」
「あっ! 矢島さん。何してるんだよ」
中原さんが、慌てて持っていた缶を私から取り上げた。
「矢島さん。何考えてんだよ」
『お前。何考えてんだよ』
同じ台詞を、高橋さんによく言われたな。
「高橋さん……」
無意識に、高橋さんの名前を呼んでいた。
「高橋さんは今、本当に辛い立場なんだよ。分かってあげて欲しい」
「えっ? な、中原さんは、何か知っているんですか? 知っているんだったら、教えて下さい! 何で、高橋さんは辛い立場なんですか? 何があったんですか? 知っているのなら、教えて下さい。中原さん。お願いします。何を分かればいいんですか? 教えて下さい」
目の前に座っている中原さんに、詰め寄った。
「あの人は、本当に仕事熱心だし、みんなに平等で真面目な人なんだ。高橋さんは、平気で自分を犠牲に出来る人だから……。でも、いつも高橋さんは、矢島さんのことを考えてくれているよ。このドリンクやつまみも、高橋さんが用意してくれたんだ。一緒に飲みましょうって誘ったんだけど、俺はいいからって。何も言わなかったけど、きっと矢島さんの好きなお酒やジュース、つまみばかりだろう? そういう人なんだよ。高橋さんは」
そうだったの?
高橋さん……。
でも、土屋さんと一緒だから来られないんじゃないの?
違うの?
私の知らない、どんな訳があるのか……やっぱり知りたい。
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