新そよ風に乗って ⑥ 〜憧憬〜
中原さんが知っているのなら、教えて欲しい。
「でも……だったら何故、土屋さんと……。中原さん! 知っているんだったら、教えて下さい」
「矢島さんだけは、高橋さんの辛さや苦しみを分かってあげて欲しいんだ」
中原さんが困った顔で、必死に言っているのが分かった。
でも、もう中原さんにすがるしかない。
今の私には、思いつかない。
何故、高橋さんが辛い立場なのか?
高橋さんの苦しみとは、いったい……。
分からない。
思い浮かばない。
泣きながら中原さんの腕を掴み、訴えていた。
「お願い……中原さん」
「ちょっと、離して」
エッ……。
私が掴んでいた腕を中原さんがそっと解くと、携帯電話をポケットから出して何処かに電話を掛け始めた。
何で?
こんなにお願いしているのに、いきなり電話を掛け始めるなんて……何故?
「もしもし、中原ですが……・寝ていらっしゃいましたか? すみません。やっぱり僕では、無理です……はい……申しわけありませんが、ちょっと来て頂けませんでしょうか?……はい……1322号室です。申しわけありません……はい。お待ちしてます」
中原さんが、電話を切って佐藤君の方を向いた。
「佐藤。そろそろ、自分の部屋に戻るぞ」
エッ……。
中原さんが、佐藤君の肩を叩いている。
「ちょ、ちょっと待って下さい。 どういうことですか? 高橋さんと矢島さんって、上手くいっ……」
ピンポーン。
その時、呼び鈴が鳴った。
「ほら、佐藤。 行くぞ」
中原さんが立ち上がって佐藤君を無理矢理立たせると、腕を引っ張ってドアの方に向かった。
誰?
もしかして……まさか?
「申しわけありません。お呼び立てして」
「いや、悪かったな。酔ってるのか?」
ハッ!
その声の主は、高橋さんだった。
「はい。すみません。僕が付いていながら、かなり飲んでしまったみたいで……」
中原さんが、高橋さんに謝っている。
「中原さん。中原さんが、高橋さんに謝ることなんてないですよ。勝手に、私が飲んだだけなんですから」
酔っているから、こんな大胆なことが言えるんだ。
< 183 / 311 >

この作品をシェア

pagetop